京大,がん抑制遺伝子と体内時計を制御する遺伝子との新しい関連の解明に成功

京都大学医学研究科特定助教の三木貴雄氏らは,がん抑制遺伝子と,一日約24時間の生体に備わっているリズムである概日リズム(サーカディアンリズム)を制御する遺伝子との新しい関連の解明に成功した。

1

概日リズムは腫瘍細胞を含む全身の個々の細胞に存在する。ところが,悪性のがんでは,概日リズムが崩れている細胞が多く観察される。しかし,なぜそういったことが起こるのか,その分子メカニズムは未だ不明だった。そこで研究グループは,ほぼ半数のがんで機能欠損が見られるがん抑制遺伝子であるp53を人為的に操作したマウスで,概日リズムを計測するという手法を用いてアプローチを行ない,分子メカニズムの解明を試みた。

p53の発現をさまざまな方法(放射線や薬剤、プラスミドの導入)で誘導した場合に,生体リズムの形成に必須の遺伝子であるPeriod2 (Per2)の転写を抑制することを発見した。その分子メカニズムは,Per2の正の転写因子であるBMAL1/CLOCKのPer2プロモーター領域への結合を競合的に阻害することにより抑制するものであった。また,p53欠損マウスの解析から,p53は生体でも同様にPer2の発現を負に制御していることを解明した。次に,p53欠損マウスの概日リズムを計測すると,野生型とくらべ,一日の時間が有意に短いことが分かった。これらの結果は,がん抑制遺伝子であるp53は概日リズムの重要な制御因子でもあることを示唆している。

がん抑制遺伝子であるp53を機能欠失した細胞は,がん化が進行すると同時に概日リズムを崩してしまうことから,p53機能欠損によるがん化に,どれほど生体リズムの制御が関係しているかが今後の課題であり,新しい治療標的につながる可能性がある。また,がんの化学療法や,放射線治療により,生体の防御機構としてp53タンパク質がしばしば活性化される。つまり,これらの治療を行なった患者で起こる睡眠障害等を誘導するメカニズムの一因が,p53による概日リズムの変化により説明できる可能性を示した。

詳しくはこちら。