理研,光合成によるバイオプラスチックの生産効率で最高レベルを達成

理化学研究所環境資源科学研究センター・バイオマス工学連携研究部門合成ゲノミクス研究チーム・チームリーダの松井南氏,マレーシア科学大学生物学部・教授のスーディッシュ・クマール氏らの研究グループは,ラン藻に微生物の遺伝子を導入し,光合成だけで高効率にバイオプラスチックを生産することに成功した。

様々な用途に使われているプラスチック製品の多くは石油由来となっている。これに対して,微生物が作り出すバイオプラスチックは,微生物による分解性を備えるなど環境への負荷が少なく,温暖化の原因とされるCO2の削減効果が期待できる。しかし,バイオプラスチックの生産には,微生物の培養に大量の糖と特別な施設が必要で,コスト面に課題がある。

今回研究グループは、バイオプラスチックの一つ「ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)」を光合成だけで生産するためにラン藻に注目。このラン藻にバイオプラスチック合成に関わる遺伝子を導入し,光合成によるバイオプラスチック合成手法の開発に取り組んだ。これが可能になれば,太陽光と,糖を含まない無機塩類の培養液から,CO2からプラスチックの生産ができるという。

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開発したPHA生産の代謝経路

実験では,ラン藻に3種類の微生物由来の遺伝子(phaB, phaC, nphT7 )を導入。その結果,溶液の炭素源なしでラン藻の乾燥重量の14%に当たるPHAを合成し,世界最高レベルの生産効率を達成した。さらに微量の炭素源として0.4%の酢酸を加えることで,PHA生産量は乾燥重量の41%まで向上した。

fig2
独自に開発したラン藻培養装置

光合成によるバイオプラスチックの生産は太陽光だけで可能であり,高価な栄養源が不要となる。このため,今回のラン藻による高効率のバイオプラスチック生産方法の開発によって,生産コストが大幅に低減され,製品も安価に提供できるようになると期待されている。

fig3
ラン藻の細胞内に蓄積されたPHA

ラン藻は,繁殖力が非常に大きい藻類。ゴムの主成分のイソプレン,バイオエタノールのイソブチルアルコールなどの化合物の生産も報告されている。今回の研究で見いだした改変代謝経路は,これらの物質への生産力向上にも応用することができる。また,新しく導入した代謝経路による細胞の全体の変化を調べるためにラン藻の全遺伝子の発現解析を行ない,生産性向上のために必要な遺伝子候補も見い出した。

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