理研,オプトジェネティックスを用いて記憶の連結と分離を調節する新たな神経回路を発見

理化学研究所は,脳の記憶形成の中枢である大脳嗅内皮質-海馬間において,記憶の連結と分離を調節する新たな神経回路を発見した。

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記憶には「何が」,「どこで」,「いつ」という情報が含まれる。この記憶の形成には,大脳嗅内皮質-海馬間の神経回路が関わっていることが知られている。「何が」,「どこで」については脳の中でどう統合され,記憶されていくかのメカニズムが解明されつつあるものの,「いつ」については,近年になって研究が進んできたというのが現状だ。

2011年に理研の利根川研究室は,数秒から数十秒離れた2つの出来事を1つのエピソードとして記憶するには大脳嗅内皮質Ⅲ層の神経細胞から海馬のCA1領域への直接入力が必要であることを報告している。しかし,時間的に離れすぎている2つの出来事までは連結して記憶する必要がなく,時間的に離れた2つの出来事の連結と分離を脳がどう調節しているのかは全く知られていなかった。

今回,研究グループは,大脳嗅内皮質Ⅱ層に内包されている細胞集団「アイランドセル」を発見した。神経回路機能を光と遺伝子操作を使って調べるオプトジェネティックスの技術を用いて,光により人為的にアイランドセルを活性化させたり,抑制したりすることで,時間的に離れた2つの出来事を連結する機能にどのような影響が出るかを調べた。

その結果,アイランドセルは海馬の抑制性神経細胞を介して大脳嗅内皮質Ⅲ層の海馬への入力を抑制することが明らかになり,アイランドセルを活性化すると,連結すべき2つの出来事が連結できなくなり,また,アイランドセルを抑制すると本来は連結すべきでない2つの出来事が1つのエピソードとして記憶された。

この研究によって,記憶形成にも調節機構が神経回路レベルで存在することが明らかになった。この成果は,記憶に関わる脳内の神経活動や,さまざまな神経系変性疾患,精神神経疾患のメカニズム解明につながると期待できるもの。

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