バーゼル大ら,1本の高分子鎖を引き上げるときの機械特性を明らかに

JST課題達成型基礎研究の一環として,バーゼル大学 物理学科シニアサイエンティストの川井茂樹氏らは,1本の高分子鎖を金の基板表面より引き上げるときの,機械特性を世界で初めて明らかにした。

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DNAやたんぱく質などの高分子鎖は,生体において重要な役割を果たすだけでなく,将来分子電子デバイスの素子として注目されている。そのため,高分子鎖の機能を調べる研究が盛んに行なわれており,例えば高分子間の結合力などの機械的な特性は,原子間力顕微鏡の探針で高分子鎖を基板表面から引っ張り上げる方法で測定している。

しかし,これまでの方法は狙った1本の高分子鎖を測定するのではなく,無作為に基板表面から拾い上げている。このため,探針がどの高分子鎖のどの位置についたのか,また,高分子鎖が途中で切れずに引き上げられたのか詳細には分からなかった。また,引き上げ時の力の経時変化も測定しておらず,その機械的挙動は不明であった。

これまでは,測定用に独立した1本の高分子鎖を基板表面に準備することが難しく,さらに高分子鎖の特定の位置(端)を探針で引き上げることが困難だった。今回研究グループは,高分子鎖を基板表面上で生成し,熱運動がほぼない極低温(-268度)下にすることで,高分子鎖の形態を精密に観察することに成功した。さらに,新たな経時測定技術を開発し,原子間力顕微鏡の探針で狙った高分子鎖(有機化合物)を基板表面から引き上げ,基板からの離脱現象を解明した。

その結果,ナノメートル領域では,吸着が支配的で,高分子鎖内の各分子が規則的に離脱することが分かった。また,表面と高分子鎖の間では摩擦が少ないことも分かった。これは,例えば机の上に張った細長い粘着テープをはがす動作でなく,柔らかく重い糸を引っ張り上げたときの動作に相当する。

今回開発した装置を使うことで,DNAやたんぱく質などのより複雑な生体高分子鎖のメカニズムがさらに解明され,新しい分子電子デバイスの展開につながることが期待される。

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