分子研ら,細胞中の「タンパク質分解装置」が出来上がる新たな仕組みを解明

自然科学研究機構分子科学研究所 / 名古屋市立大学大学院薬学研究科教授の加藤晃一氏,東京都医学総合研究所所長の田中啓二氏,名古屋市立大学大学院薬学研究科准教授の佐藤匡史氏らの研究グループは,細胞内においてタンパク質の分解を行う巨大な酵素複合体であるプロテアソームを構成する部品の一つで,その活性を調節するタンパク質と,他のタンパク質が正しくかたちをととのえるのを手助けするタンパク質であるシャペロンとして機能するNas2との複合体の立体構造解析に初めて成功した。

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近年,プロテアソームの働きを抑える薬は抗がん剤として世界中で使用され,大きく注目されている。今回,プロテアソームが形成される新たな仕組みが明らかにされたことで,従来の医薬品とは異なる作用機序をもつ新規医薬品の開発につながることが期待される。

これまで研究グループでは,タンパク質の立体構造研究を通じてこれらシャペロンタンパク質が働く仕組みを明らかにしてきた。タンパク質分解装置としてのプロテアソームのなかで,その働きを担うタンパク質複合体(活性調節タンパク質複合体と呼ばれる)は,6つのよく似た部品から出来ているため,間違った並び方をした不良品が出来てしまう可能性が考えられる。

そこで,シャペロンタンパク質が言わば「型枠」としての役割を演じることによって,Aプロテアソームを効率的にかたちづくることが明らかになってきた。しかしながら,これらシャペロンの中でNas2と呼ばれるタンパク質の構造と役割が唯一不明であったので,プロテアソームが出来上がる仕組みの全貌はわかっていなかった。

研究グループは,プロテアソームを構成する部品の一つでその活性を調節するタンパク質と,Nas2との複合体の立体構造解析に初めて成功した。その結果,Nas2は,活性調節タンパク質複合体が組み上がるまでの間,タンパク質分解の中核をなすプロテアーゼ複合体が合体しない様に一時的にブロックすることで,未完成な部品からなる不良品装置による暴走を抑える機能を果たしていることがわかった。

プロテアソームが,こうした仕組みを通じて効率良く出来上がっていくことが,この研究を通じて初めて明らかになった。プロテアソームの働きを阻害することによってがん細胞を死滅させることができることから,今回の成果は従来の医薬品とは異なる作用機構をもつ新規医薬品の開発に大きな手掛かりを与えるもの。

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