京大ら,超高密度磁気メモリなどへの応用が期待されるハーフメタル新材料の合成に成功

京都大学,高輝度光科学研究センターらの研究グループは,英国エジンバラ大学 極限条件科学センター研究グループと共同で,高密度磁気メモリや高感度センサなど将来のスピントロニクス分野でのデバイス応用が可能な新しいA-Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物材料を合成することに成功した(プレスリリース)。

超高密度磁気メモリなどエレクトロニクスと磁性の融合した技術としてスピントロニクスが注目を集めているが,そのようなデバイスに用いる材料は伝導電子が高いスピン偏極率を持つことが必要。また,デバイスの安定動作には,伝導電子がスピン偏極を示す温度(磁気転移温度)が室温よりも十分に高い新材料の開発が望まれていた。

研究グループでは,ペロブスカイト構造酸化物のAおよびBサイトにおいて,複数の元素が規則配列した新しいA-Bサイト秩序型ペロブスカイト構造酸化物CaCu3Fe2Re2O12を合成することに成功した。

この物質は,560K(約300℃)という高い温度以下で大きな磁化(低温で8.7μB/f.u.)を示し,かつ金属的な電気伝導特性も示す。放射光実験施設SPring-8の詳細な解析から,AサイトにあるCu2+の磁気モーメントとBサイトのFe3+の磁気モーメントが同じ方向を向いてそろっており,BサイトにあるRe5+の磁気モーメントがこれらと反対方向を向いてそろうことでフェリ磁性となり,これらの磁性イオン間での相互作用により,室温を超える高い転移温度と大きな磁化が生じていることが明らかになった。

また,第一原理による電子状態の理論計算からは,この物質の基底状態は電気伝導特性を担う電子のスピンが一方向のみからなるハーフメタルであることも明らかになった。実際に合成した多結晶試料の電気抵抗を磁場中で測定すると,磁場の方向と大きさに応じて電気抵抗が変化する粒界トンネル磁気抵抗効果が比較的弱い磁場で観測される。これは,この材料の電気伝導特性がスピン偏極した伝導電子によるものであることを示している。

この材料の磁気転移温度560Kというのは,ハーフメタルとして知られている二重ペロブスカイト構造酸化物(Sr2FeMoO6)でこれまでに観測されていた410Kよりもかなり高い温度であり,また磁気転移温度以下で測定される磁化の値もはるかに大きい。

材料が磁気転移温度以上になると,強磁性的な性質や伝導電子のスピン偏極特性が失われてしまうため,このように室温よりはるかに高い転移温度を持つ材料を使うことで,実用温度域での多少の温度変化に対しても安定して動作するデバイスを作製することができるようになる。また,大きな磁化や磁気抵抗を利用することで,従来よりも高密度・高感度なデバイスやセンサなどを作製することも可能となる。

スピン偏極した伝導電子を持つハーフメタルとしてこれまでに知られている材料はそれほど多くはない。今回の新物質の発見は,ハーフメタル材料のバリエーションを広げ,多彩な機能性を融合する酸化物エレクトロニクスの研究開発分野を大きく発展させるもの。新物質の発見により,多彩な機能を融合する酸化物エレクトロニクスにおける材料バリエーションが広がり,この分野での研究開発を大きく発展させることが期待される。