理研,神経細胞で働くmRNAを網羅的に同定する新しい手法を確立

理化学研究所(理研)は、ラット小脳のプルキンエ細胞で翻訳中のmRNAを、網羅的かつ細胞内部位特異的に同定する手法を確立した。(プレスリリース)

小脳は運動学習に不可欠な脳の部位。小脳ネットワーク内で唯一の出力神経細胞として中心的な役割を果たすのがプルキンエ細胞だが、その機能を支える分子機構の詳細は分かっていない。そのため、プルキンエ細胞で作られるタンパク質を完全に網羅したカタログの作成が待たれていた。

また、運動学習を支える重要なプロセスの多くが樹状突起で作られるタンパク質を必要としていることから、このカタログは細胞内部位特異的な精度であることが望まれる。

特定の種類の細胞で作られているタンパク質をリストアップするには、その細胞内でリボソームに結合し、まさにタンパク質へと翻訳されているmRNAを選択的に取り出す「TRAP法」が有効だが、費用と時間のかかる遺伝子改変マウスの作製が必要。

今回研究グループは、特定の神経細胞に感染するウイルスを利用し、より迅速・安価で、遺伝子改変マウス以外の動物にも広く適用の可能性のある手法を確立した。そしてこの「改良版TRAP法」でラットのプルキンエ細胞の細胞内部位ごとにmRNAを回収し、理研が独自に開発した「CAGEscan法」で、数千ものmRNA配列を高感度で定量的に読み出した。

配列データの解析の結果、世界で初めて、ラットプルキンエ細胞で作られているタンパク質を細胞内部位特異的にほぼ網羅したカタログの作成に成功した。

今回研究グループが開発した手法は、より迅速かつ安価なだけでなく、疾患の動物モデル研究に不可欠な霊長類への応用も期待できる。小脳のプルキンエ細胞の異常はスムーズな動きができなくなる運動失調症を引き起こし、またある種の自閉症患者の脳ではプルキンエ細胞の減少や異常が確認されている。この研究の成果がこうした疾患の研究に貢献し、将来的には治療法の開発につながっていく可能性もある。