九大ら,燃料電池の白金電極を超える水素酵素電極の開発に成功

九州大学と名古屋大学の研究グループは,燃料電池のアノードとして一般に使用されている白金触媒の能力をはるかに超える水素酵素(ヒドロゲナーゼ)「S–77」電極の開発に成功した(プレスリリース)。

水素と酸素から電気エネルギーを作り出す水素–酸素燃料電池は,廃棄物として水しか排出しないことから,クリーンな次世代発電デバイスとして期待されている。しかし,電極触媒には高価かつ枯渇性の白金が使用されており,その代替触媒の開発が待たれている。

ヒドロゲナーゼは鉄とニッケルを活性中心として持つ金属酵素で,白金と同様に水素から電子を取り出し,白金に優る能力を持つと期待されていた。自然界では,ヒドロゲナーゼが常温常圧の温和な条件で水素から電子を取り出しており,その能力は白金をはるかに超えることが知られている。しかし,酸素に対する不安定さにより燃料電池への応用にはこれまで成功していなかった。

今回,研究グループは、阿蘇山の過酷な環境下で生息しているヒドロゲナーゼ S–77 を見出した。この酵素は酸素に安定であり,燃料電池のアノード触媒として白金をはるかに超えることを示した。具体的には,白金に比べて質量活性で637倍,電流密度で1.8 倍,電力密度で1.8倍の能力を持っている。

このような高い能力を示す理由として,研究グループはヒドロゲナーゼ S–77 と白金の水素を活性化(切断)するメカニズムが根本的に異なっているためと推定している。この研究により,酸素耐性ヒドロゲナーゼの固体高分子形燃料電池(PEFC)のアノード触媒への応用に世界で初めて成功した。

研究グループは,有用な金属酵素の探索と同時に,酵素をモデルとした合成研究も実施している。今回得られた成果を基に,2011年9月6日発表の「白金の1/25の人工触媒を開発」を超える人工触媒の開発にも着手している。これら生体触媒および人工触媒の両面から既に自動車メーカーとの共同研究もスタートしている。