KAST,数㎛以上サイズで配向の揃った結晶粒からなる酸化物薄膜結晶の成長に成功

神奈川科学技術アカデミー(KAST)と東京大学らの研究グループは,物質・材料研究機構(NIMS)らと連携し,安価なガラス基板上に高品質な酸化物薄膜結晶を成長する手法を開発した(プレスリリース)。

エレクトロニクスデバイスの高性能化に重要な,配向が制御された欠陥の少ない薄膜結晶を得る手法としては,結晶構造が類似した単結晶基板上でのエピタキシャル成長が一般的だが,単結晶基板には高コスト・大面積化が難しいといった課題がある。このため,ガラスやプラスチックといった安価なアモルファス基板上で配向の揃った薄膜結晶を得るための手法が研究されている。

このような手法の一つに,NIMSが2009年に発表したナノシートシード層法がある。ナノシートシード層法では,層状酸化物結晶を剥離して得られる厚さ1nm程度の2次元結晶(酸化物ナノシート)をガラス基板上に敷き詰めて擬似的な単結晶基板として利用する。この手法は,配向の揃った薄膜結晶を得るための優れた方法だが,個々の結晶粒のサイズが酸化物ナノシートの大きさ(一般的に数㎛以下)に制限されるという問題があった。

研究グループは,ナノシートシード層法を固相結晶化法と組み合わせ,結晶粒を数㎛以上の大きさまで横方向に成長させることに成功した。固相結晶化法は,目的物質の非晶質薄膜を基板上に堆積し,熱処理によって大きな結晶粒からなる薄膜結晶を得る手法。

新たに開発した手法では,はじめにガラス基板上に酸化物ナノシートをまばらに塗布し(第一シード),目的物質のごく薄い薄膜結晶をナノシート上に選択的にエピタキシャル成長させる(第二シード)。この上に非晶質薄膜を堆積して熱処理を行なうと,第二シードを種結晶とした目的物質の横方向結晶成長がおこり,酸化物ナノシートよりも大きな結晶粒を得ることができる。

今回の研究では,酸化チタン透明導電膜にこの手法を適用し,最大で10㎛程度の大きさで,かつ配向の揃った結晶粒からなる薄膜結晶を得ることに成功した。その結果,ガラス基板上に作成した酸化チタン透明導電膜としては最も低い3.6×10-4Ωcmの電気抵抗率を達成した。

さらに,電子の動きやすさを表す移動度は13cm2V-1s-1で,単結晶基板上に作成したエピタキシャル薄膜に匹敵する値だった。この特性は,この手法によって結晶配向の制御と粒界散乱の抑制が同時に実現された結果だとしている。

今回開発した手法は,酸化チタン透明導電膜だけでなく,代表的な酸化物エレクトロニクス材料であるチタン酸ストロンチウムにも適用できることが確認されている。簡便な方法で安価なガラス基板上に高品質な薄膜結晶を成長することが可能なため,酸化物薄膜結晶を用いた低コストで高性能なデバイスの開発につながると期待される。