東大,スパッタリングとガラス基板を用いた低コストLED製造法を開発

東京大学生産技術研究所教授の藤岡洋氏らは,スパッタリング法を用いて,低コストでガラス基板上に窒化物半導体のLEDを作製する技術の開発に成功したと発表した。製造コストと材料コストを下げると共に,大面積化により放熱が不要になるなど,1/10~1/100にまでLEDのコストを下げる可能性があるとしている。この研究は科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業「CREST」の支援を受けて行なわれたもので,6月23日に「Scientific Reports」に掲載された。

今回の発表のポイントは大きく2つある。一つはLED製造時に高コストとなる原因であるMOCVDの代わりにスパッタリングを用いたことであり,もう一つは高価なサファイア基板の代わりに安価なガラス基板を用いたことだ。これらにより製造コストを下げ,さらに青,緑,赤の3原色のLEDを作製することにも成功した(上図)。特に,窒化物半導体LEDでは難しいとされれてきた赤色の作製に成功したことで,ディスプレイへの応用が期待できる。

開発した方法はスパッタリングによって基板上にAlN,n-GaN,MQW(多重量子井戸),P-GaNを順に積層するというもの。大きくても8インチ程度の基板にしか対応できないMOCVDに対し,スパッタリングはロール・トゥ・ロールを含めた大面積プロセスへの適用が可能なほか,既にICや液晶の製造などで広く産業応用されているなど,確立した技術なので既存設備を流用できるのも強みだとしている。

また,MOCVDは1000℃程度の高温プロセスのため,基板材料は限られてくるが,スパッタリングは500℃以下と低温で,基板材料の選択幅が増える。そこで研究グループは,コスト的に安く,フレキシブルな超薄製品も開発されていることから,ロール・トゥ・ロールによる生産の可能性も見えてきたガラスを基板として用いた。

ただし,ガラス基板は原子が不規則に並んだ非晶質のため,そのままでは上に結晶質の窒化物半導体をきれいに積むことは難かしい。そこで今回,ガラス基板と窒化物半導体の間に炭素の2次的な元物質であるグラフェンの層を挿入し,その上に窒化物半導体を作製したところ,きれいな結晶性を持ったGaNを積層することができた。

グラフェンは非晶質基板の上でも一定の方向を向いているため,このように良質な結晶の窒化物半導体を形成することが可能となる。また,高品質なグラフェンではなく,量産されている安価なグラフェンシートで良いため,コストは問題にならない。さらに,スパッタリング法とグラフェンの組み合わせにより,ガラス以外の基板にも応用が可能だという。

3原色のLEDは,赤を含め半導体形成時の温度を下げると共にInの組成をそれぞれ変えることで作製に成功した。量子効率などの指標についてはこれから正確な評価をする段階だとしているが,それぞれMOCVDとスパッタリングでサファイア基板上にLEDを作製した場合,その性能には差が無いものの,スパッタリングでガラス基板上にLEDを製作した場合は結晶性に多少劣化が見られるので,これを如何に改善するかが今後の課題だとしている。

LEDディスプレイを作製するためにはRGB素子を規則的に作成することが求められる。これについては既存の基板製造技術の応用により可能だと藤岡氏は見ているが,まずは簡単な方法としてLEDを白色光源として,RGBフィルタを用いることも考えられるとしている。今回の技術によりフルカラーのディスプレイが実現すれば,基板次第でフレキシブルディスプレイへの応用の他,LEDによる可視光通信機能を備えたディスプレイなどへの展開も期待される。

さらに,大面積のLEDを面発光照明に応用する可能性も高まる。現在製品化が進む有機EL照明はまだまだ製造コストが高く,寿命や安定性,それらを保つためのパッケージング技術などが課題となっている。藤岡氏は「結晶がランダムに並ぶ有機ELに対し,Ⅲ-Ⅴ族半導体である窒化ガリウムは光を出すことにおいて最高の性能を持っている」ことから,今後この技術が面発光の照明分野でも有力になると予測している。

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