東工大ら,CNTを用いたテラヘルツ波検出器の開発に成功

東工大,ライス大,サンディア研の研究チームは,配列されたカーボンナノチューブ(CNT)の薄膜を用いて室温動作のテラヘルツ波検出器を開発した(プレスリリース)。これは医療用イメージングや空港セキュリティ,食品検査など多岐にわたるテラヘルツ波の応用につながる成果。テラヘルツ波はエネルギーが光に比べて非常に小さいため,効率的に吸収・検出する材料や機構が少なく,検出には新たなアプローチが求められていた。

CNTは炭素原子のみで構成されており,その直径は1~10 nm程度であるにもかかわらず,長さは数cmにも達する。炭素間の結合は非常に強く,変形をおこしにくい。テラヘルツ領域でのCNTの特性は注目されていたが,従来の研究は理論的な解析やコンピュータシミュレーションによるものが多い。CNTを用いたテラヘルツ波検出に関する研究もいくつか報告されているが,いずれも単体もしくは一本の束状ナノチューブによるものだった。

これまで行なわれてきた,CNTによるテラヘルツ波検出の大きな課題は,テラヘルツ波の波長が数10 μm~数100 μmと比較的長いため,単体のナノチューブに対してはアンテナの結合が必要であることだった。そこで研究チームは,ライス大が開発した高配向CNT薄膜を利用することで,アンテナを必要としないフォトディテクタを考案した。

CNTは光を効率的に吸収する特性を持っており,この薄膜は光吸収体として非常に優れた特性を示す。テラヘルツ領域においても,CNT薄膜は,入射する電磁波を広帯域に吸収することがわかっている。

ライス大の研究チームは,ナノスケールの金属的・半導体的CNTが混在する厚さ数100μmから数mmサイズの薄膜作製技術を培ってきた。本来,ナノスケールの領域に半導体と金属を高密度に集積させることは難しく,従来の材料でこのようなデバイスを作製することは困難であったが,CNTを用いることでそれを実現した。

金属ナノチューブのテラヘルツ波をよく吸収するという特性と,半導体ナノチューブ特有の電気的特性を組み合わせることができるという点でこの技術は大変重要なものであり,既存技術に匹敵する能力を持ちながらもパワーレスで駆動できるフォトディテクタの実現を可能にした。このディテクタは,可視光・赤外光・テラヘルツ波の広大な周波数帯域を一つのデバイスで検出可能できる。

この研究成果によってCNT薄膜のテラヘルツ波検出能力が明らかになった。次の段階としては,テラヘルツ波の検出能力の向上,ナノチューブ薄膜サイズなどのデバイス構造の最適化,集積化技術などがあるとしている。