理研,ヒトiPS細胞の分化多能性を向上させるタンパク質を発見

理化学研究所(理研)は,「CCL2」と呼ばれるタンパク質がヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)の分化多能性を維持,向上させることを発見し,その機能に関与する遺伝子群の存在を明らかにした(プレスリリース)。

ヒトiPS細胞とマウスiPS細胞では,性質に大きな違いがある。マウスiPS細胞は分化多能性が高く,白血病阻止因子(LIF)を培養液中に添加することで,幹細胞の培養条件を整えるフィーダー細胞を使わずに分化多能性を維持したまま培養可能できる。一方,ヒトiPS細胞は,塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加し,さらにフィーダー細胞上で培養しないと分化多能性を失ってしまう。

これまでに研究グループは,マウスiPS/ES細胞でフィーダー細胞の有無で発現に違いがあった遺伝子を調べ,CCL2を見いだしており,CCL2を培地に添加すると分化多能性が向上することを確認していた。

今回,ヒトiPS細胞の培養においてbFGFの代わりにCCL2を添加したところ,bFGFの場合に比べて多能性マーカー遺伝子の発現が顕著に上昇した。次に,CCL2添加下,bFGF添加下で培養したそれぞれのヒトiPS細胞での遺伝子発現の変化を,理研が開発した「CAGE法」で詳しく調べた。

その結果,CCL2は多能性マーカー遺伝子だけでなく,細胞が低酸素の状態に置かれた際に働く遺伝子群も活性化させていることが分かった。低酸素環境では,iPS/ES細胞の分化が抑制される。つまり,CCL2は低酸素に対する細胞応答と似た状態を誘導することで,分化多能性の維持・向上に関わる可能性が示唆された。

さらに,CCL2とLIFをそれぞれプロテインビーズに取り込ませて培養に使用することで,フィーダー細胞なしで分化多能性を維持したままヒトiPS細胞の培養に成功した。分化多能性を向上させる技術の確立は,より簡便に効率よく目的の細胞に分化誘導させることを可能にし,ヒトiPS細胞の基礎研究や医療応用への発展を促進すると期待できる。