東大,カイメンからがん細胞の増殖を抑える物質を作る酵素の遺伝子を解明

東京大学の研究グループは,相模湾に生息する海綿動物を起源とする細胞毒性物質の生合成遺伝子を取得し,その遺伝子配列をもとに生産者を探索,海綿動物に共生するバクテリアであるEntotheonella sp.が生産者であることを明らかにした(ニュースリリース)。

海綿動物は最も原始的な多細胞動物であり,岩などに付着して濾過した海水から有機物を摂取して生きている。高度な免疫系や物理的防御機構を持たない海綿動物からは,化学防御を担うと考えられる抗菌活性物質や細胞毒性物質が数多く見出されている。その中にはHalichondrin Bなど抗がん剤の候補となる化合物として重要なものも報告されている。

一方で,海綿動物由来の細胞毒性物質の多くは海綿動物自身ではなく,海綿動物に共生する微生物が生産している可能性が長年指摘されていた。しかし,それらが合成されるメカニズムや生産者に関してはほとんど分かっていなかった。

興味深いことに今回,宿主である海綿動物への毒性を回避するためか,この共生バクテリアはより毒性の低い前駆物質(最終的に細胞毒性物質となる前の段階の物質)を生合成していた。前駆物質が蓄えられた海綿動物の組織がひとたび外敵によって傷害されると,傷害部位においてのみ前駆物質から細胞毒性物質が生じる巧妙な機構が存在することが分かった。

今後研究グループは,Entotheonellaの培養化の可能性や適切な異種発現系を確立することで,Entotheonellaが生産する多様な生理活性物質の有効利用が期待できる。また,calyculin Aを利用した化学防御機構の詳細が明らかになれば,その毒性を制御する技術開発が可能となり,がん細胞などの目的の細胞や組織においてのみ毒性を発揮するプロドラッグ治療の開発も期待できる。

また,海綿動物からはcalyculin A以外にも数多くの抗がん剤の候補となる化合物が見出されている。今後これらの生産者を特定し,その活性制御機構を解析する上で,今回の成果は参考となるような方法論を提示するもの。