東大ら,リチウムイオンがフラーレンの反応性を2400倍向上することを発見

東京大学,大阪大学,名古屋市立大学らは共同で,世界で初めてリチウムイオン内包フラーレン(Li+@C60)の反応性を定量的に測定した(ニュースリリース)。Li+@C60は,その構造に由来した高い電子受容性や優れたイオン伝導性といった物性が注目されている。

その結果,リチウムイオンが入っていない通常のフラーレンC60と比較して,シクロオクタジエンとのディールス・アルダー反応の反応障壁となる活性化エネルギーが室温付近では約24kJ/mol低くなり,反応速度が約2400倍速くなるという,リチウムイオンの“分子内封入触媒効果”が明らかになった。

このようなディールス・アルダー反応における加速効果は,従来の酸触媒でも知られていたが,その場合,原料物質に酸触媒が結合するための酸素や窒素など炭素以外の元素が必要だった。

今回のフラーレンは,その触媒を分子のかごの中に閉じ込めることで,そういった元素を全く必要とせず,触媒がある程度炭素分子近傍に固定されれば反応が加速されるというリチウムイオンの“分子内封入触媒効果”が,新しい触媒の設計指針となり得ることを証明した。

また,化学工業,医薬品合成にも用いられるディールス・アルダー反応は,立体的な効果と電子的な効果により反応性が左右されるが,今回の反応において,通常のフラーレンとリチウムイオン内包フラーレンは同じ外形・体積をもつため立体的な効果に差はなく,内包されたリチウムイオンの電子的効果のみを議論することができる。

さらに,反応速度を精確に測定することで,活性化エンタルピー,活性化エントロピーなどの物理的パラメータを求め反応を定量的に評価することにも成功した。

これらの研究成果は,この反応の理解をより深めることにつながり,新しい触媒設計の指針となりえる。また,生成物として得られるリチウムイオン内包フラーレン誘導体は,他のフラーレンを凌駕する有機機能性材料として,今後,有機太陽電池,リチウム電池,キャパシタなどの電池材料への応用が期待できる。

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