京大ら,従来品の約6倍以上の超長寿命2次電池を可能にする材料を開発

京都大学のグループは,シャープのグループとの産学共同研究で,新規の材料設計手法により従来のリチウムイオン電池の寿命を6倍以上に達成できる材料開発に成功した(ニュースリリース)。この成果は蓄電池の寿命を大幅に延長することに成功したことにとどまらず,多数の高精度な計算データを活用した革新的な材料設計手法により,実際の材料開発が大幅に加速できることを実証したもの。

従来型の材料開発では,研究者の勘と経験に基づき試行錯誤的に多くの合成と評価の実験を繰り返して行なわざるを得なかったため,最適な化学組成の探索がボトルネックとなっていた。

今回,リチウムイオン電池の正極材料として広く用いられているリチウム鉄リン酸塩(LiFePO4)のサイクル寿命特性を改善するため,「第一原理計算」を数千種類という多数かつ高精度に実施し,そのデータを活用してハイスループット・スクリーニングすることで,最適な化学組成を効率的に見つけ出す手法を開発した。その結果,材料開発の効率が大幅に向上できた。

この物質設計結果を実証するために,合成実験が行なわれた,設計された組成は6種の元素から構成される複雑なもので,通常の手法では合成が困難であることがわかった。そこで,環状エーテルを使ったゾル-ゲル法という新合成手法を駆使し,ターゲットとなる電池正極材料の合成に成功した。

合成された物質の構造は,計算で予測した結果と良い一致を示した。この材料を正極材料として用い電池特性を評価した結果,従来の材料に比べて6倍以上となるサイクル寿命を示した。予測される電池寿命は25000サイクルであり,これは毎日1 回の充放電で70年の寿命に相当する。

これらの成果は,計算と実験を組み合わせた革新的手法が,効率的な材料探索に極めて有用であることを実証したもので,今後の展開が大きく期待されるもの。今後長寿命リチウムイオン電池が実用化されれば,電気自動車や再生可能エネルギーの蓄電など,リチウムイオン電池の大型機器への応用を加速するとが期待される。

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