NIIら,ダイヤモンドを用いた現実的な量子コンピュータを設計

情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII),日本電信電話,蘭ウィーン工科大学らが参加する国際研究グループは,小さなダイヤモンドのかけらを用いた量子コンピュータの基本素子のデザイン,そこからシステムへ組み上げるためのアーキテクチャなど,大規模な情報システムを組み上げられるような素子とシステムの構成に成功した(ニュースリリース)。

開発したシステムは,大規模化が可能であるのに加え,これまでにない小型化・集積化のしやすさ,そして大量生産に適している点が大きな特徴。

微細加工技術や光制御技術によって量子制御は急速に実現しつつあり,量子コンピュータの情報単位である量子ビットをコンピュータ素子として制御する方法や,2つの量子ビット上に計算のためのゲート操作の方法が提案されている。また,量子コンピュータの計算結果に信頼性を持たせるための誤り訂正が十分に施されたシステムは,多数の量子ビットを含む複雑なシステムとなることもわかってきた。

しかし,量子コンピュータのような情報システムでは,量子制御を次々と実行していかなくてはならない。量子制御ひとつひとつが高精度で独立に実行可能であっても,これらを統合して行なう必要のある量子計算を実行するのは困難だった。

また,量子コンピュータのシステム・アーキテクチャは,トポロジカル量子誤り訂正の方法を用いた研究が進み,いくつかが提案されている。しかしながら,これらを実現する素子や量子制御の方法は必ずしも明らかになっておらず,現状,アーキテクチャの要請と現実的な素子構成方法とがかみ合わない。

実験室での量子制御の実験を,多数の素子からなる複雑な情報システムへと結ぶ方法の解明が,量子コンピュータの実現化上の「鍵」となる。今回研究グループは,この全く性質の異なる2つのハードルをクリアし,大規模な量子コンピュータを実現する素子とシステムの構成の詳細を世界で初めて示した。

今回のダイヤモンドを用いた量子コンピュータの構成方法では,誤り訂正にトポロジカル量子誤り訂正を用い,誤り耐性のある量子計算が実行可能であり,単純に素子の数を増やすことにより,より大規模な問題を扱うことが出来るスケーラビリティに優れた構成方法となっている。トポロジカル量子誤り訂正を用いることで,アーキテクチャにスケーラビリティを持たせ,またダイヤモンドと共振器を用いた素子設計で集積化を可能にしている。

ダイヤモンドは,近年の研究で結晶制御や微細加工などが可能になってきた。また,その詳細な量子的性質も明らかになりつつあるなど,量子情報技術で期待されている。今回はその中でも特に注目されている,ダイヤモンド中の窒素原子(N)と空孔(V)の対がつくるNV中心の電子スピンと窒素原子15がもつ核スピンを用いた。

今回のアーキテクチャ・素子提案では,量子計算に必要となる素子の量子制御をひとつずつ追い,それらをすべて統合したシステムとしての動作の評価にも成功した。また,これら量子制御の解析や,システム動作の評価は,タスクが変わっても変化しないので,解く問題に因らず適応できる。

研究グループでは,提案した素子は,現在の技術レベルで実現化が可能であることが計算上示されており,ウィーン工科大学で素子の実現化に向けた実証実験が進められている。現在の世界最大級の計算機を凌駕するような大規模な量子コンピュータを組み立てるには,精度の改善が必要な部分が一部あるものの,最近の急速な材料や加工技術,光制御の発達からして,十分に現実的だとしている。

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