京大,骨格筋幹細胞が眠るしくみの一端を解明

京都大学は,マイクロRNA(miRNA)のmiR-195・miR-497が,骨格筋幹細胞の静止期/未分化状態への移行を誘導することを発見した(ニュースリリース)。

さらに骨格筋幹細胞を試験管培養する際にmiR-195・miR-497を導入し,筋ジストロフィーモデルマウスの骨格筋に移植すると,再生筋への移植能が高まることを見い出し,これらのmiRNAが,試験管内における筋幹細胞の筋再生能の保持に有用であることを示した。

人間の骨格筋は,激しい運動や疾患により筋が損傷しても,骨格筋専用の幹細胞が効率よく修復する高い再生能力がある。この幹細胞には,普段は増殖・分化せず(静止期),再生が必要になると活性化され,増殖・分化して新しい筋細胞を作ると同時に,再び幹細胞を産み出して次の再生に備えるという巧妙な仕組みがある。

このような仕組みを応用して,難治性筋疾患である筋ジストロフィーなどにこの幹細胞を移植することで再生筋における機能タンパク質の発現を促す治療開発が期待されている。しかし骨格筋幹細胞は試験管培養すると幹細胞としての能力(未分化性)を失い,再生筋への移植効率が著しく低下するという問題を抱えている。

今回の研究では,この幹細胞の静止期への移行を誘導,未分化状態をもたらすマイクロRNA,miR-195/497の同定に成功した。筋幹細胞を培養する際miR-195/497を導入すると,増殖を抑え,未分化性を高めることができ,筋ジストロフィーモデルマウスに移植された幹細胞の生着を向上させることができることを確認した。

研究グループは今後,ヒトでも同様の機構が働いているか調査を進める。ヒト骨格筋組織より幹細胞を単離し大量に得ることは現時点では困難なため,iPS細胞などからの骨格筋幹細胞の作成,あるいは少量の骨格筋幹細胞を大量に増やすという再生医療研究に対し,今回のmiRNAの知見が生かされるとしている。

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