分子研ら,絶え間なく揺らぐ水中の糖鎖の立体構造をNMRで解析することに成功

自然科学研究機構 分子科学研究所と名古屋大学の研究グループは,核磁気共鳴法(NMR)や計算機シミュレーションを用いた多角的な研究によって,複雑な糖鎖のダイナミックな構造変化を明らかにすることに成功した(ニュースリリース)。

糖鎖は,タンパク質間のコミュニケーションを制御するが,糖鎖が提示するタンパク質運命の暗号は,糖鎖の“かたち”を識別するレクチンと総称されるタンパク質によって読み解かれる。そのため糖鎖の機能についての理解を深めるためには,糖鎖の立体構造について理解することが不可欠となる。

しかし,糖鎖は複雑な構造であることに加え,高い柔軟性をもち,水中では絶えず揺らいでいる。そのため,糖鎖分子の描象(構造,姿かたち)をあるがままに描き出す手法はなかった。これらの問題を解決するため,研究グループは核磁気共鳴(NMR)法を用いた糖鎖の構造解析法の開発に取り組んできた。

研究では,炭素原子に標識をつける方法に加え,金属イオンを分子の構造情報を得るための目印として活用したNMR法と,最先端の分子シミュレーションを組み合わせることによって,糖鎖の詳細な構造解析を実現した。また,開発した手法を用いることで,水中で揺らいでいる糖鎖の,立体構造のダイナミクスを明らかにすることにも成功した。

この研究の結果,糖鎖は,分子のわずかな変化によっても,立体構造に大きな影響が生じることがわかった。こうしたダイナミックな立体構造の変化が,糖鎖とレクチンとの間のコミュニケーションに重要な役割を果たしていると予想される。

この研究によって,高磁場NMR分光法,有機化学,計算機科学,分子生物学などのアプローチを統合した体系的方法論を構築することができた。研究グループはこうした手法を応用することで,糖鎖の分子科学と生物学の基礎的理解を促すとともに,医薬産業界へも大きな波及効果をもたらすことが期待できるとしている。

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