中大ら,治療薬の効果を光トポグラフィ脳機能検査で可視化することに成功

中央大学と自治医科大学の共同研究グループは,光を用いた無侵襲の脳機能イメージング法である光トポグラフィ(機能的赤外線分光法:fNIRS)を利用して,注意欠如・多動症(ADHD)治療薬について,「薬の効き方」を可視化することに成功した(ニュースリリース)。

ADHDは全人口の5%以上に幼児期から発症する代表的な神経発達障害で,「待てずに反射的に行動してしまう(衝動性)」,「落ち着きがない(多動性)」,「忘れ物をする事が多い(不注意症状)」といった症状を伴う。従来,ADHDの診断と治療効果の検討は行動観察が中心であり,客観的評価方法の開発が望まれていた。

実験では,6歳から14歳のADHD児約50名に,塩酸メチルフェニデート徐放薬,または,アトモキセチンを服用させた。さらに,別の日にプラセボ薬(薬効成分のない薬)を服用させた。服用前後に,行動抑制ゲーム,または,注意ゲーム中の脳の活動を,光トポグラフィによって計測した。比較対照として,薬を服用していない定型発達児約50名にも同様の課題を行なった。

定型発達児の場合,行動抑制ゲーム中に右前頭前野,注意ゲーム中に右前頭前野と右頭頂葉の活動が見られた。ADHD児の場合,服薬前,プラセボ薬服薬時とも活動は見られなかった。一方,塩酸メチルフェニデート徐放薬服用後は,注意,行動抑制ゲーム中のどちらでも,右前頭前野の活動が強めに回復した。アトモキセチンを服用後は,行動抑制ゲーム中には右前頭前野,注意ゲーム中には右前頭前野と右頭頂葉の活動が弱めに回復した。

このように,ADHD児への薬物治療効果を光トポグラフィで可視化できることが分かった。さらに,薬の種類や脳の活動内容によって,それぞれの薬特有の脳機能の回復効果があることも分かった。研究グループでは今後,この研究を発展させ,光トポグラフィで脳活動を参考にしながら,ADHDの症状や薬の効き方に応じて薬物治療の効果を確認する,テーラーメイド治療の開発を推進するとしている。

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