東大ら,ブラックホールから激しく変化する高エネルギーのガンマ線放射を観測

東京大学,京都大学,東海大学,徳島大学,高エネルギー加速器研究機構の研究者が参加する国際共同実験,MAGICのMAGICチェレンコフ望遠鏡により,地球から2.6億光年離れたペルセウス銀河団にある電波銀河「IC310」の中心の超巨大ブラックホールで発生した,超高エネルギーガンマ線の爆発現象を観測した(ニュースリリース)。

このガンマ線の爆発現象からは,5分間という短時間で強く変動するガンマ線放射を観測した。特殊相対論によれば,物体表面全体の明るさが変化するには,最低限,光がその大きさを通過するだけの時間が必要となる。IC310の中心にあるブラックホールの大きさは太陽と地球との距離の数倍程度であり,光が通過するのに約20分かかる大きさに相当するため,観測された爆発現象は全くの予想外だった。

この短時間で激しく変化するテラ電子ボルト高エネルギーのガンマ線放射は,理論的にブラックホールの大きさから推定されるガンマ線放射よりもはるかに短い時間で変化するもの。加えて,これまでの,光速に近い速度で発せられるプラズマ流の効果を考慮したガンマ線放射モデルでは今回の観測結果は説明できない。

研究グループは,中心のブラックホールは星間物質が中心に降り注いで形成された結果,高速で回転しており,このブラックホールが磁気圏を有した場合,極方向の磁場中に電位のギャップが発生し,そこに強い電場が現れると,この電場に沿って,荷電粒子は超相対論的なエネルギーにまで瞬時に加速されると考えている。これらの高エネルギー荷電粒子が,周辺の降着ガスからの光子を叩き上げて(逆コンプトン散乱)ガンマ線を作りだす。

このシナリオで描かれるガンマ線放射は,嵐の中で数分毎に蓄えられた電気エネルギーを放つ稲妻にも似ている。同様の現象が太陽系程の大きさの領域にて発生し,銀河のはずれまで相対論的な速度で粒子を打ち上げていると示唆されるとしている。

研究グループでは今後,高エネルギーガンマ線天文学により,謎の多いブラックホール,またその周辺の極限的物理状態の研究がさらに進展していくものと期待している。

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