東大ら,強い磁場の下で超伝導が一部破壊されながらも生き残る特異な状態を観測

東京大学,仏グルノーブル国立強磁場実験施設,米ブラウン大学の国際共同研究チームは,強い磁場の下で超伝導が一部破壊されながらも生き残る特異な状態(FFLO状態)が存在することを示す実験に成功した(ニュースリリース)。

超伝導は,発熱を伴わずに抵抗ゼロで電流が流れる劇的な現象であることから,物理学とその応用の両面から盛んに研究されている。超伝導は磁場のある環境下で利用されることが多いが,強い磁場は超伝導を破壊する。このため,強磁場下の超伝導の振る舞いは最も重要な課題のひとつとなっている。

超伝導は,電荷を持ち微小な磁石でもある電子が対(クーパー対)を作ることで起こる。磁場は,クーパー対の運動を誘発するとともに,クーパー対内で反対向きに打ち消しあっている微小な磁石を磁場方向に起こそうとする。この2つの効果は共にクーパー対を破壊するように作用し,磁場が強くなると,超伝導は破壊される。

しかし,さらに強磁場でも,一部のクーパー対が破壊されながらも生き残っているクーパー対がその濃度を空間的に波打たせることで超伝導が維持される特異な状態(FFLO状態,FFLOは提唱者4名(Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov)の名前の頭文字)が古くから提唱されていた。その存否を巡っては様々な物質を対象に実験がなされて来たが,未だ決定的な証拠は得られていなかった。

共同研究チームは,有機超伝導体に強い磁場を掛けて,超伝導状態を核磁気共鳴実験で調べることにより,FFLO状態を捕らえることに成功した。この成果は,超伝導の応用においても,従来の超伝導破壊機構を越えて磁場の限界を引き上げる可能性を示唆するものとしている。

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