北大らの超小型衛星,宇宙用液晶波長可変フィルタによる高解像度スペクトル撮影に成功

北海道大学と東北大学が共同開発した超小型地球観測衛星「雷神2」は,世界初の宇宙用液晶波長可変フィルタを組み込んだ高解像度多波長望遠鏡システム(HPT)を用いて,地表の高解像度スペクトル画像の撮影に成功した(ニュースリリース)。

「雷神2」は2014年5月24日に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ,その後,各種の撮像実験を続けている。これまでに,魚眼CCD カメラ(WFC)を用いた台風や夜景の撮影,高解像度多波長望遠鏡システム(HPT)を用いた,重さ50kgクラスの衛星としては世界最高の5m解像度でのカラー撮影に成功してきた。

今回,HPT用いて,地表の高解像度スペクトル画像の撮影に成功し,複数の波長で得られた画像から,植生指標(NDVI:ormalized Difference Vegetation Index)のマップを,地表における解像度約10mで作成することに成功した。このHPTに組み込んだ世界初の宇宙用液晶波長可変フィルタは,仙台高等専門学校と共に開発したもの。さらに特殊セラミックスを使ったミラーなど先端的な技術を応用し,同HPTは世界初となる400波長での高解像度撮影を目標のひとつに掲げてきた。

2014年9月14日に,滋賀県彦根市の複数波長における狭帯域スペクトル画像を高品質で撮影した。画像の範囲は約2.2kmx3.2km。複数波長の画像を合成して処理することで,植生の分布・活性を表す指標であるNDVIのマップを作成することに成功した。地表での空間解像度は約10m。このような詳細な解析を可能にする,数100 波長の選択性を持った宇宙からの単色高解像度撮影技術は,大型衛星も含み世界最高(通常は30m解像度)。

例えば,代表的なリモートセンシング衛星であるLandsat-8衛星は,9波長のみで解像度30m。この成果は,先端的なセンサ技術と,衛星バスシステムの高度な制御が噛み合うことによって達成された。こうした衛星からの高解像度のスペクトル撮影技術の確立は,CO2排出権取引の基礎資料と
なる森林計測や,災害・汚染地域の高精度監視,高効率・高品質を実現するAI 農業,高度な省エネルギー漁業に道を拓くものとしている。

研究グループは今後,さまざまな観測波長の組み合わせを試しながら,より高精度のスペクトル計測を目指すと共に,観測対象を地上でも計測し,遠隔計測の検証と精度の向上を進めていくとしている。

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