NAISTら,らせん高分子の光学異性体を光源の波長と溶媒の屈折率制御で高効率に作製

奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)と中国蘇州大学の国際共同研究チームは,らせん高分子の左右の作り分けは円偏光源の波長(エネルギー)で決定され,円偏光源の回転方向だけでは決められないことを発見した(ニュースリリース)。

一般に鏡像関係にある分子を光学異性体と呼ぶ。光学異性体の左右の違いで,味や香りの知覚,光学異性体の識別能力,円偏光吸収や円偏光発光特性,医薬農薬の効能や毒性が全く異なる。そのため研究者たちは光学異性体やそれがネックレス状に長く繋がったらせん高分子の左右を効率良くつくる方法を探し求めてきた。

しかしながら,らせん高分子の光学異性体は化学的な合成が難しく,触媒分子の左右を精密設計し,かつ,合成条件を最適化するなど,長年の経験と高度な知識,技術,高価な出発原料,高価で特殊な溶媒を大量に必要としている。

実験では,円偏光源を光学不活性(アキラル)緑色発光高分子に照射すると,可視光の右円偏光では右らせん構造が,紫外光の右円偏光では左らせん構造(キラル)高分子ができてきた。高分子の左右性は,短波長の紫外光円偏光フォトン(高エネルギー)と長波長の可視光円偏光フォトン(低エネルギー)では全く逆に作用した。

具体的には,同じ右回転の円偏光源を照射しながら,波長の長い可視光(波長405–589nm)では右らせん高分子,波長の短い紫外光(313–365nm)では左らせん高分子ができた。

同一波長(エネルギー)であれば,従来の指導原理とおり,円偏光源の回転方向を右から左に変えれば,らせん高分子の左右を反転できた。また不斉光反応時に,屈折率が1.4のアルコール系溶媒(1リットルあたり100円程度)を用いると反応が極めて効率よく進行することも見いだした。

この実験から,クリーンな光エネルギーである円偏光源の左右性と照射波長(照射エネルギー)および溶媒の屈折率という三つの要因が不斉(らせん構造)の発生と制御に関わっていることがわかり,緑色の円偏光発光高分子ナノ粒子の発生と制御にも成功した。

研究グループは今回の成果により,不斉触媒や不斉な化学物質を一切使用することなく,反応溶媒の屈折率を制御して短波長の円偏光フォトン(高エネルギー)と長波長の円偏光フォトン(低エネルギー)を自在に組みあわせるだけで,らせん高分子,将来的には光学異性体(低分子)の左右性を,常温常圧下,無触媒での合成に期待する。

また,らせん高分子のみならず,医薬農薬の分野で要求されている光学異性体(低分子)を製造する工程の一部を短縮化するなどの応用展開にも期待できるとしている。

関連記事「富山県立大,鏡像異性体を高純度で生産する方法を開発」「筑波大,キラルな構造をもたず光学活性を示さないモノマーからキラルで光学活性を示すポリマーの合成に成功