原研,重粒子線によって生じたDNAの傷が塊のように存在することを発見

日本原子力研究開発機構(原研)は,重粒子線によって生じたDNAの複数の傷が極めて近接して塊のように存在していることを,世界で初めて見出した(ニュースリリース)。

炭素イオンビーム等の重粒子線のがんの治療効果はX線やガンマ線に比べ2~3倍高いことがわかっている。この高い治療効果は,重粒子線照射によりがん細胞のDNAに生じる致命的な傷が原因とされ,この傷はDNAの二重らせんの1~2回転分ほどの狭い範囲(およそ数㎚)に複数のDNAの傷が近接,密集して生じたものではないかと推察されていた。しかしながら,放射線照射により生じたDNAの傷の微視的な空間分布をこれまで誰も観測することができなかった。

そこで,原研の研究グループは,DNAの傷に目印として蛍光分子を付け,ナノメートルオーダーの距離に近接した蛍光分子の間で生じる,蛍光共鳴エネルギー移動という現象を利用して,DNAの傷のミクロな分布(かたまり具合)を観察できる新しい手法を世界で初めて開発した。

この手法を用いて原子力機構高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設(TIARA)で発生させた炭素イオンビームをDNAに照射したところ,X線やガンマ線に比べて,DNAの傷がナノメートルオーダーで「かたまっている」ことを発見した。

この結果は,重粒子線の高いがん治療効果の原因が,DNAの複数の傷が互いに近接,密集して生じるためであると示唆する重要な成果。研究グループは,重粒子線などの放射線で生じるDNAの傷のミクロな分布を明らかにしたことについて,重粒子線がん治療の高度化や重粒子線を含む宇宙放射線の人体影響の正確な評価につながるとしている。

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