理研ら,X線回折イメージングの分解能と信頼性を大幅に向上

理化学研究所(理研)と慶應義塾大学の共同研究グループは,コヒーレントX線回折イメージング(CXDI)法による細胞など生体試料のイメージングの分解能と信頼性を大幅に向上できる測定・解析法を開発し,計算機実験により実証した(ニュースリリース)。

CXDI法は,μmからサブμmサイズの結晶化が極めて困難な試料の内部構造を,電子顕微鏡のように試料を薄片にスライスすることなく,光学顕微鏡より高い分解能で観察可能なイメージング手法。現在,細胞など生体試料の構造解析への応用が進められ,非常に強力なコヒーレントX線光源であるX線自由電子レーザ(XFEL)の利用により,分解能30~60 nmでのイメージングが可能となっている。

しかし,X線回折能の低い生体試料からは弱いシグナルしか得ることができず,分解能をさらに向上させることができなかった。また,観測される回折パターンは実験上の制約から回折角が小さな領域のデータは測定できないため,結像に用いる従来の計算アルゴリズムでは,正しい像を再生できない場合があることが問題となっていた。

研究グループは,これらの問題を同時に解決すべく,生体試料と同時にX線回折能の高い多数の金粒子をイメージングするという新たな測定・解析法を考案した。

生体試料と金粒子それぞれで回折されたX線は,干渉効果により強め合いや弱め合いが起こる。金粒子の単位体積当たりの回折能は生体試料の10倍程度高いため,生体試料由来の回折シグナルを測定できるレベルまで効果的に押し上げることができ,高分解能情報を有する大きな回折角のシグナルまで観測可能となる。

また,個々の金粒子からの回折X線が干渉し合うことで,回折パターンには金粒子間の相対位置の情報が含まれており,回折パターンをフーリエ変換することで,金粒子の配置を導出することができる。

こうした操作は,分子の構造解析法として成熟したX線結晶構造解析法において,重原子法として広く行われている手法に類似している。そこで,研究グループは重原子法に用いられるアルゴリズムを組み込んだ独自の解析ソフトウエアを開発し,回折パターンから導出された金粒子配置を既知の試料情報として位相回復計算に利用する新たな試料像再生法を考案し,従来に比べて信頼度の高い試料像の再生を試みた。

研究グループはSACLAでのCXDI実験を基に,べん毛を有するバクテリアを模した試料での計算機実験を行ない,金粒子によってバクテリアの回折シグナルをおおよそ1桁押し上げられることを確認した。また,開発した新規試料像再生法を回折パターンに適用することで,従来法の2倍以上の分解能で投影電子密度像を再生することに成功した。この投影電子密度像により,従来法では困難な,金粒子のわずか1%の投影電子密度しかないバクテリアの細胞の周囲のべん毛まで再現性良く可視化した。

生体試料と同様に回折能が低い非結晶試料は,材料科学分野でも多く存在する。研究グループは,この手法が実用化されることで,これらの科学的に重要な非結晶試料の機能原理解明,工学的な応用に資するとしている。また,CXDIは実用化されてから15年程度しか経っておらず,X線結晶構造解析,電子顕微鏡の技術を取り入れながら独自の手法を開発していくことで,その可能性がさらに広がると期待している。

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