J-PARCセンター,シンクロトロン加速器で1MW相当のビームパワーでの陽子の加速に成功

日本原子力研究開発機構及び高エネルギー加速器研究機構の共同運営組織であるJ-PARCセンターは,大強度陽子加速器施設J-PARCの第2段加速器である3GeVシンクロトロン(3GeV Rapid Cycling Synchrotron : RCS)において,平成27年1月10日の試験運転時に,所期性能である1MW相当のビームパワーでの陽子の加速に成功した(ニュースリリース)。大強度の高繰り返し陽子シンクロトロンとしての世界最高性能を更に向上させたことになる。

RCSのビームパワーの大強度化は,RCSがビームを供給する物質・生命科学実験施設及び50GeVシンクロトロンにおける,様々な実験のための二次粒子の強度を上げるために不可欠な要素。物質・生命科学実験施設では,1MW陽子ビームの供給により,二次粒子である中性子ビームの強度が上がることで,創薬にかかわる多くのタンパク質などこれまで見えなかったものを見ることができるなど,研究の著しい進展が期待できる。

ビームパワーを高めるには多数の陽子を加速することが必要になる。RCSで1MWのパワーを出すため,まず前段部であるリニアックの構成機器を大強度仕様に入れ替えて性能を向上させた。今回はイオン源を新型に入れ替えることで陽子数を約2倍に増やした。また,倍増した陽子を加速できる能力を備えた新型の線形加速器(RFQ)に入れ替えた。

更に,RCSの構成機器である電磁石の磁場及び高周波加速空洞の周波数を精度よく調整することで,1パルス当たり8.41×1013個(84兆1000億個)の陽子の加速に成功した。この陽子を25Hz(1秒間に25回),3GeVまで加速して取り出すと,ビーム出力は1MW相当となり,RCSの所期性能となる。

RCSは,物質・生命科学実験施設及び50GeVシンクロトロンへ300kWのビームを供給してきており,今後はまず400kWへの増強を予定している。更には,ビーム試験を重ね,利用運転時の陽子ビーム強度を徐々に増加させて,1MWのビーム供給を目指す。

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