農工大ら,高強度レーザパルスを発生する超高速ファイバレーザを開発

東京農工大学は,産業技術総合研究所(産総研)が開発した光学素子を用いることで,パルス幅65フェムト秒の高強度レーザパルスを直接発生する超高速イッテルビウムファイバレーザ装置の試作機を完成させた(ニュースリリース)。

レーザ加工においては,高強度のレーザ光をストロボスコープのように極めて短い時間に光強度が集中する超短パルスを出力し,かつ,なるべく小さなスポット径に集光するレーザ装置が理想的とされる。超高速イッテルビウムファイバレーザは,この目的に合致する最新のレーザであり,近年需要が著しく伸びている。

一般にレーザ利得媒質の共通の特性として,光強度を上げると出力できるパルスの時間幅が短くできなくなる「利得狭窄」と呼ばれる性質があり,高出力化と超短パルス化を両立することが難しい。そのために,従来のファイバーレーザでは,高強度化と超短パルス化を両立することは困難だった。

今回研究グループは,産総研で開発した「利得狭窄補償フィルタ」という光学素子を用いることで,パルス幅65フェムト秒の高強度レーザパルスを直接発生する超高速イッテルビウムファイバレーザ装置の試作機を完成させた。

フェムト秒の超短パルス発生には,パルス幅の逆数程度のスペクトル帯域幅が必要となる。産総研で開発した利得狭窄補償フィルタでは,イッテルビウムファイバ増幅器で生じる利得の波長依存性を特別な設計の誘電体多層膜の波長依存性で相殺させる。その結果,出力スペクトルも広がってより短いパルスを発生することができる。

開発したレーザ装置はチャープパルス増幅法を用いている。まず,フェムト秒シードパルス発生器で小出力のフェムト秒パルスを発生させ,パルス伸長器でパルス時間幅を拡大する。イッテルビウムファイバ前置増幅器で増幅した後,増幅器で生じる利得狭窄を補償するために多層膜補償素子に透過させ,さらにイッテルビウムファイバ出力増幅器で増幅する。

この出力チャープパルスを,農工大が優れた技術を持つパルス圧縮器で時間幅を縮小し,65フェムト秒パルスを得た。出力パルスのスペクトルとパルス波形では,1020nm~1075nm の広いスペクトル帯域とそのスペクトル形状から得られる理論限界に近いパルス波形が得られた。

研究グループは今回,小型化・低コスト化・高信頼化が期待できるファイバーレーザ装置単体で高強度と超短パルスを両立させることに成功した。今後,この装置を農工大の物質制御技術と組み合わせることにより,物質を分子原子レベルで自由に操作する基礎研究を展開していくとしている。レーザ装置として汎用性の高いので,光通信・光記録,材料加工,科学研究,先端計測,医療などの広範な分野で活用されることが期待されるという。

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