東大ら,量子テレポーテーション心臓部を光チップ化

東京大学 古澤明教授のグループとNTTは,英ブリストル大学,英サウサンプトン大学との共同研究で,量子テレポーテーション装置の心臓部である量子もつれ生成・検出部分の光チップ化に成功した。

現代の情報処理技術は原理的限界に近づきつつあると言わる一方,量子力学の原理を応用した新しいタイプの情報処理(量子情報処理)により,従来技術の限界を超える究極的な大容量通信(量子通信)や,超高速コンピュータ(量子コンピュータ)が実現できることが予測されている。

こうした量子情報処理の実現へ向けた最重要課題の一つが量子テレポーテーションとなる。これは,光子に乗せた量子ビットの信号を,ある送信者から離れた場所にいる受信者へ転送する技術。量子テレポーテーションの応用は多岐にわたり,テレポーテーション装置をブロック単位として複数ブロック組み合わせることで,長距離間での量子通信や,光量子コンピュータ回路などが構築できる。

2013年に東京大学大学院工学系研究科の古澤教授らは完全な量子テレポーテーション実験に成功し,従来に比べ100倍以上の効率で量子テレポーテーションを行なう方法を見つけた。しかし,この量子テレポーテーション装置は大きな光学定盤上に何百もの光学素子を配置して実現されており,拡張性において限界に達していた。

今回,研究グループは,量子テレポーテーション装置の心臓部である量子もつれ生成・検出装置の光チップ化に成功した。この光チップでは,これまで約1平方メートルの光学定盤上に多くの光学素子を配置して構成していた量子もつれ生成・検出部分を,26×4mm(0.0001 平方メートル)のシリコン基板上に半導体微細加工技術を用いて作製される石英系光導波路回路として実現した。

これは,従来比で1万分の1の小型化に成功したことになる。研究グループは,この光チップを用いて量子もつれ光を生成し,その検出を光チップ内に配置された干渉計を用いたホモダイン検出により行ない,量子もつれ生成を検証した。

検証は,まず量子もつれ光源となる2つのスクイーズド光(光子が偶数個ずつ対の状態で飛んでくる特殊な光)を,2つの光パラメトリック発振器(OPO)を用いて生成した。それを,光ファイバアレイを用いて光チップ中に入射させた。光チップ中の量子もつれ光生成用干渉計を用いて2つのスクイーズド光を干渉させ,量子もつれ状態にある2つの光ビームを生成した。

この2つの光ビームを2つのホモダイン検出用干渉計にそれぞれ入射させ,それぞれでホモダイン測定(HD1,HD2)を行なった。その出力の和や差を測定することにより,量子もつれを検証した。

今回の成功により,2013年に成功した完全な量子テレポーテーションを光チップにより行なうことが可能になった。この成果は超大容量光通信や超高速量子コンピュータの実用化へ向けて突破口となるもので,拡張性の問題を一挙に解決したことになる。

今回用いられた石英系光導波路回路は広く実用化されている光通信用デバイス技術を応用したもので,小型化のみならず,光損失,組立精度・安定性の上でも,光チップ化により大きく前進する。研究グループは次の段階として,量子テレポーテーション装置全体を光チップ化することを挙げている。

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