理研ら,ファイバレーザによるスペースデブリ除去技術を考案

理化学研究所(理研)の共同研究グル―プと,仏エコール・ポリテクニーク,原子核研究所宇宙物理センター/パリ第7大学,伊トリノ大学,米カリフォルニア大学アーバイン校らは,レーザを用いて,数センチメートル(cm)サイズの小さなスペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去する技術を考案した(ニュースリリース)。

2000年から2014年の間にスペースデブリの量は約2倍に増えているとされ,宇宙開発における大きな障害になっている。人工衛星のように大型のものから微細なものまで,約3000トンのスペースデブリが宇宙を漂っており,それらが互いに異なる軌道をとることから,回収が難しくなっている。

共同研究グループは,軌道上から高強度レーザをスペースデブリに照射し,その結果生ずるプラズマの反力を使って減速させ,地球大気に再突入させて除去することが可能であることを示した。ファイバレーザを並列に用いれば,高強度・高効率・高頻度のパルスレーザーシステムを宇宙機に搭載できる。

具体的には,高強度レーザによるアブレーションを利用する。高強度レーザをスペースデブリに照射するとスペースデブリの固体表面からプラズマが噴き出すプラズマアブレーションが起きるので,その反作用(反力)を使う。平均パワーが500kWのレーザビーム(パルス幅は約1ナノ秒)をスペースデブリに照射すれば,100㎞以上離れた場所から10秒程度の照射で10cmサイズのスペースデブリを減速して地球大気へ再突入させることができることが分かった。

一方,10cm以下のスペースデブリは地上からの検出が難しい。小さなスペースデブリを検出し,軌道を決めるために,口径約2.5mのEUSO型超広角望遠鏡を用いる。EUSO型超広角望遠鏡は±30度の広い視野を持つと同時に,100kmの距離にある0.5㎝の大きさのスペースデブリから反射する太陽光を検出するのに十分な感度を持っている。

このEUSO型超広角望遠鏡でスペースデブリのおおまかな位置と見かけの速度を決め,その方向にレーザ探索ビームを照射し,スペースデブリの正確な位置と距離をLidarによって求めることが可能であることを,今回示した。EUSO型超広角望遠鏡は地球大気に入射する超高エネルギー宇宙線を検出するための宇宙望遠鏡(EUSO)計画のために,理研が中心となった国際チームが開発を進めている。

一方,課題となるのは,平均パワーが500kWに達する宇宙用高強度レーザの製作。高強度レーザは精密な調整が必要なため,打ち上げロケットの振動に耐えられない。しかし,ファイバレーザを多数並列に使うことで,精密な調整の不要な,高強度かつ高頻度のレーザを作ることが十分に可能なことがわかった。

さらに,高速で動くスペースデブリの検出からレーザビーム照射による軌道制御までの一連の作業を,1秒程度以下で行なわなければいけない。軌道制御の限界距離を100km前後とすると,スペースデブリが限界距離を通過する時間は10秒程度しかない。加えて,100㎞先のcmサイズのターゲットにレーザを集中させ,10秒間にわたって追尾し続けるレーザの光学系が必要になる。このレーザの光学系には,高い精度と剛性が求められる。

しかし,光学系の精度はハッブル宇宙望遠鏡などですでに達成されており,500kWものエネルギー密度と1秒で数度の高速追尾に耐える望遠鏡の開発も,現在最新の光学設計技術を使えば十分可能だとしている。

共同研究グループは今後,地球観測のための人工衛星が密集する,高度約700~900㎞の極軌道付近に,スペースデブリ除去専用の宇宙機を近くに打ち上げることを提案している。宇宙機に口径2.5mのEUSO型望遠鏡と平均出力500kWのレーザを搭載すれば,数分に1回,近づいてくるスペースデブリを約100㎞の距離で検出し,その運動方向からレーザビームを照射してその反力で再突入に導くことが理論的に可能。この宇宙機を5年程度運用することで,cmサイズのスペースデブリの大部分が除去ができるとしている。

この技術は,より大きなスペースデブリの除去にも役立つ可能性がある。大きなスペースデブリを捕獲するには,その回転を十分に遅くしておく必要があるが,アブレーションによる反力でスペースデブリの回転を止めることが可能だという。共同研究グループは,米国,ロシア,ヨーロッパ,アジア諸国との国際協力で,スペースデブリの除去を20年内に実行したいとしている。

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