東工大,光学的に有機単結晶中のキャリア輸送を可視化

東京工業大の研究グループは,有機単結晶中における異方的なキャリア輸送を直接可視化する手法を開発した(ニュースリリース)。

キャリア移動度は有機デバイスの特性を決定する重要な指標であり,高移動度材料の開発や作製プロセスの研究が盛んに行われている。単結晶は高移動度を実現する上で有効ではあるが,キャリア輸送が単結晶特有の異方性に支配されたものとなるため,実際にデバイスに用いるにあたって移動度異方性を評価する必要がある。

一般に,移動度の異方性は電気特性から評価するが,電極を多数用意する必要があり分解能に制限がある,接触抵抗などの影響を除去する必要があるといった課題があった。

今回研究グループは,移動度を電気特性から評価する一般的な手法の課題に対して,時間分解顕微光第2次高調波発生法(TRM-SHG)と円形電極を用いて,有機半導体薄膜における移動度異方性を直接評価した。第2次高調波発生(SHG)信号は反転対称中心を持つ材料からは発生しないが,電界が材料に印加されることで発生するようになる。

材料に注入された電荷は,それ自身が電界の源となるため,電界の時間的変化をTRM-SHG法によって捉えることで,キャリア輸送の様子を直接観測することが可能となる。また,電極形状を工夫し,円形の単一電極を用いることで,電極の周囲全方向に同時にキャリアを注入・輸送させることができるため,キャリア輸送の異方性を直接可視化することができる。

Dip-coating法によって得られたTIPSペンタセン薄膜において,円形電極を用いて輸送特性を評価した結果,方向によってキャリアの進行距離が異なっており,輸送の異方性を画像として捉えることをできた。この結果からは移動度の最大値が2.1 cm2/Vs,最小値が0.55 cm2/Vs,移動度異方性が約3.8程度と見積もられた。

TRM-SHGと円形電極による手法を用いることで,単結晶材料や配向した高分子半導体材料において,異方性を含めた移動度の評価が可能となる。特に,接触抵抗などがある場合においても,その影響を考慮した解析ができ,新しい材料開発への貢献が期待されるという。

一方で,この手法の特徴は材料中の電界を直接評価できることにある。そのため,移動度だけでなく,デバイス中に存在するトラップなどの情報に関しても得ることができる。また,有機デバイスのみならず,無機の半導体デバイスの評価法としても有効だとしている。

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