理科大ら,燃料電池材料の性能低下原因をX線等で解明

東京理科大学,電力中央研究所,名古屋工業大学,高エネルギー加速器研究機構,徳島大学,弘前大学,日本原子力研究開発機構は共同研究により,固体酸化物形燃料電池の電解質材料である安定化ジルコニアの長期アニールによる結晶,局所構造の変化をSPring-8の放射光X線回折,研究用原子炉JRR-3の中性子回折,フォトンファクトリーARのX線吸収スペクトルによって解明した(ニュースリリース)。

水素と酸素から発電する燃料電池はクリーンなエネルギーデバイスとして注目されている。その中で電極,電解質を含む全てが固体で構成されているものを固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell: SOFC)と言い,高い温度で作動し,発電効率も高いことから次世代エネルギーデバイスとして期待されている。

SOFCが実用化されるには,10万時間程度の作動時間が要求されており,特に電解質の耐久性が重要となっている。この耐久性の評価は,電気化学特性やラマン分光では盛んに行なわれているが,原子やイオンの位置を直接的に観測する放射光X線,中性子を用いた研究はほとんど行なわれていなかった。

研究グループは,SOFC電解質材料である安定化ジルコニアについて,長期加熱時に酸素イオン伝導度が低下する(Zr0.85Y0.15)O2-δ(8YSZ)と低下しない(Zr0.81Sc0.18Ce0.01)O2-δ(10SSZ)を用意し,それぞれ600℃,800℃で2000時間まで長期加熱し,放射光X線回折,中性子回折,X線吸収スペクトル測定を行ない,それらのデータから結晶・電子構造解析を行なった。これらの結果を相補的に用いて,酸素イオン伝導度と結晶構造,局所構造の関係について検討した。

放射光X線回折,中性子回折データを用いてリートベルト解析,最大エントロピー法解析を行なった。その結果,酸素イオン伝導度が低下する8YSZと低下しない10SSZでは,長期加熱によって構成するイオン及びイオン中の電子の集まり方に違いがあることが分かった。この局所構造をX線吸収スペクトルにより更に詳しく解析,第一原理計算を行ない,Zrイオンの位置がずれていることが分かった。

このように放射光X線回折,中性子回折,X線吸収スペクトルをマルチプローブとして相補的に利用し,さらに第一原理計算によってモデルを検することで酸素イオン伝導度は局所的なZrO8の歪みより,長周期的な秩序性が関係していることを明らかにした。

このようなイオン伝導度低下の原因解明により今後,SOFCの耐久性改善に応用され,SOFC普及が促進されることが期待される。また,これらの成果は,放射光回折,中性子回折,X線吸収をマルチプローブとして,量子ビームを相補的に用い,さらに理論計算を組み合わせることによって,これまでに明らかできなかった新しい知見を得ることができることを実証しており,今後の材料研究の有用な手法であることを示すものだとしている。

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