NIFSら,大気圧低温プラズマの電子密度計測方法を開発

核融合科学研究所(NIFS)と東京大学は,有害物質分解などの環境保全技術や医療・バイオ分野への応用が見込まれる,大気圧低温プラズマの電子密度計測方法を開発した(ニュースリリース)。

大気圧低温プラズマを有害物質分解などの環境保全や医療・バイオ分野に応用する研究は世界中で行なわれている。それぞれの分野で最適なプラズマを作るためには,プラズマの物理量を精密に測定し,制御する必要がある。電子密度は基本的な物理量の一つであり,これまで様々な測定方法が用いられてきた。

レーザ光を用いた干渉法はプラズマの電子密度計測の代表的な手法だが,大気圧低温プラズマの場合は,プラズマ内及び周囲の大気の状態変化の影響によって,電子密度を正確に測定することが難しいという問題があった。一方,大型ヘリカル装置(LHD)を用いて高温・高密度のプラズマの閉じ込め研究を行なっているNIFSにおいても,高精度な電子密度計測手法の開発が大きな研究テーマになっている。

研究グループは今回,NIFSのLHDによる実験研究において,プラズマの電子密度を高精度で計測可能なディスパーション干渉計(高調波干渉計)を開発した。高温プラズマ計測で開発したこの手法を利用することで,今回,大気圧低温プラズマの高精度計測で問題となる,大気(ガス)の影響を大幅に低減することに成功した。それにより,電子密度を高精度でかつ比較的簡易に測定できることを実証した。

大気圧低温プラズマで精度良く電子密度を測定できることで,経験や試行錯誤だけに頼ることなく,医療・バイオ分野への応用等に最適なプラズマを作ることができるようになる。さらに,電子密度が正確に測定できることで,生体や環境有害物質との作用で重要な活性イオン種の挙動を,コンピュータシミュレーションで解明することが可能となる。

今回開発した高調波干渉計による測定手法は,他の大気圧低温プラズマの電子密度計測手法と比較して,プラズマを作る際に使用するガスの組成によらず,高精度な電子密度測定が可能であるという利点もある。これにより,大気圧低温プラズマ研究を基礎・応用の両面で大いに加速することが期待される。

この手法の開発は,医療・バイオ分野などへの大気圧低温プラズマの応用研究に貢献することが期待される。現在の計測システムは比較的大きいため持ち運びが困難だが,今後は持ち運びが容易で,かつ狭い空間でも使えるように小型化を進める。また,より密度が低い大気圧低温プラズマでも使用できるように,密度の分解能の向上を図るとしている。

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