岡山大ら,光合成光化学系I複合体の構造を解明

岡山大学大と中国科学院植物学研究所の共同研究グループは,光合成で光エネルギーを高効率に吸収し,水からの電子を利用して二酸化炭素を糖に変換するために必要な還元力を作り出している光化学系I複合体の構造をX線結晶構造解析法で解析し,2.8 Å分解能で立体構造を明らかにした(ニュースリリース)。

酸素発生型光合成において,太陽光エネルギーを吸収し,生物が利用可能な化学エネルギーへ変換する役割を持っているのは,葉緑体のチラコイド膜上に存在する光化学系II (PSII),光化学系I(PSI)という2つの巨大な膜タンパク質複合体。このうち,光化学系II複合体は水を分解し,酸素,水素イオン,電子を産生しており,地球上の好気生物の生存を支えている。

一方,光化学系I複合体は,水からの電子と光エネルギーを利用して,二酸化炭素を糖に変換するために必要な還元力(NADPH)を作り出している。高等植物の光化学系I複合体は,14個のタンパク質と90個以上のクロロフィル(葉緑素),22個のカロテノイドなどから構成されており,その外側にさらに4つの光エネルギーを集める役割を持つ集光性アンテナタンパク質(LHCI)が結合している。

このようにできた光化学系I-集光性アンテナタンパク質複合体 (PSI-LHCI)は,合計16個のタンパク質と155個のクロロフィル,35個のカロテノイドなどを含み,分子量600 kDaに達する巨大な分子となっている。この複合体に含まれる多数のクロロフィル分子は,光エネルギーの高効率吸収・伝達のために最適な配置を取っており,それらの最適配置はタンパク質場の中で実現されている。

光化学系I-集光性アンテナタンパク質複合体における光エネルギーの高効率吸収・伝達の機構を解明するため,この複合体の立体構造を明らかにする必要があった。これまで多くの研究者がこの複合体の結晶化・結晶構造解析に挑み,そのうち,イスラエルの研究者が報告した3.3 Åが最高の分解能となっていた。

研究グループは,エンドウ豆の葉から光化学系I(PSI)巨大タンパク質複合体を精製・結晶化し,結晶の質を大幅に改善することに成功。SPring-8の放射光X線を利用して2.8 Å分解能で立体構造を解析した。解析された構造から,155個のクロロフィル分子を同定し,これまで分かっていなかった多くのカロテノイド,脂質分子などの配置を明らかにした。さらに,詳細な構造が分かっていなかった多くのタンパク質サブユニットの構造が判明。光エネルギーを吸収し,反応中心へ伝達する経路を同定した。

光合成では,高い効率で光エネルギーを吸収・利用している。この光エネルギーの高効率利用の機構を解明することは,光合成の機構を理解するだけでなく,人工光合成における光エネルギー利用効率の向上にも重要な知見を与えることになる。人工光合成は,人類が直面するエネルギー問題,環境問題の解決に重要なアプローチの一つ。今回の研究成果は,光合成における光エネルギー利用機構を解明するための基盤を提供しただけでなく,他の巨大膜タンパク質の結晶構造解析にも重要な知見を提供することになるとしている。

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