昭和電工,銀ナノワイヤ/インクを開発

昭和電工とマイクロ波化学は,印刷技術によって透明導電パターンを形成する銀ナノワイヤインクについて,共同で量産技術を開発した(ニュースリリース)。

昭和電工は,2012年に大阪大学と共同で,印刷により透明導電パターンを形成する銀ナノワイヤインクを開発している。銀ナノワイヤインクで高い光透過性と導電性を実現するには,金属ナノ材料である銀ナノワイヤのアスペクト比(長さと径の比)を高めることが重要であり,従来の合成方法では銀ナノ粒子が表面全体で結晶成長しやすくワイヤ状になりにくいことから,安定的に生産するための量産技術の確立が課題となっていた。

両社は今回,選択加熱技術のひとつであるマイクロ波加熱を用いた合成方法を開発した。銀ナノワイヤの成長過程において銀ナノ粒子にマイクロ波を照射すると,成長末端のみがエネルギーを吸収し発熱する。この特性を利用し,銀ナノ粒子に結晶成長を阻害するキャッピング剤を選択的に吸着させることで,細長いワイヤを効率的に生産することに成功した。

また,銀ナノワイヤインクは印刷後,光焼成技術(Photonic Curing TM)により導電性を発現させるが,昭和電工では今回,基板への密着度を高め,焼成時の基板へのダメージを最小限に抑えるアンダーコート剤も開発した。一般的に熱に弱いとされる銀ナノワイヤの劣化を防ぐオーバーコート剤も開発中で,開発したインクおよび周辺部材は,昭和電工より7月にサンプル提供が開始される予定。

さらに昭和電工は,スクリーン印刷によって薄膜の電子回路形成が可能な導電性銀インクも開発した(ニュースリリース)。

近年,デバイスの高性能化に伴い基板が多層化し,回路基板においても薄膜化が求められている。しかし導電性インクは銀などの金属粒子のほか,インクの粘度を高めるポリマーや溶剤が添加されており,薄膜でも導電性と粘度を維持するには,絶縁体であるポリマーの使用を最小限に抑え,金属粒子自体の濃度を高めることが必要だった。

また,プリンテッドエレクトロニクス分野で主流のスクリーン印刷は,版の裏側からインクを滲出させる孔版方式のため,インクにはメッシュを透過する容積が求められ,ほかの印刷方式に比べ印刷後のインク膜厚が厚くなる傾向にある。

同社は今回,独自のポリマー組成および溶剤組成を改良し,高価な銀粒子の濃度を高めることなく,薄膜でも十分な導電性と粘度を確保する銀インクを開発した。このインクで印刷された電子回路は,後工程の熱処理で溶剤を蒸発乾燥させるだけで,1マイクロメートル以下に薄膜化することが可能だという。

なお,このインクは印刷後の熱処理のみでも十分な導電性を確保できる,上記の光焼成技術(Photonic Curing TM)を併用することで,非常に短時間にさらに高い導電性が実現できるとしいてる。さらに同社は今回,このインクにも適したアンダーコート剤およびオーバーコート剤も開発しており,導電性を維持しながらさらに接着強度を高めることができる。

同社では銀インクに関し,薄膜(1マイクロメートル)から厚膜(30マイクロメートル以上)までグレードを揃え,周辺部材とともに,来月よりサンプル提供を開始する。同社は今回の技術を応用し,5マイクロメートル以下の線幅の回路形成においても,他の印刷手法も合わせて開発を進めていく。