東工大ら,ドメインの無い大面積有機薄膜を形成

東京工業大学の研究グループは,科学技術振興機構ERATO「染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト」,理化学研究所と共同で,センチメートル規模の大面積でドメイン境界のない有機薄膜を形成することに成功した(ニュースリリース)。

有機薄膜は様々な応用上極めて重要であるが,それらの作製時,膜内にドメイン境界が生じ,膜の強度や電気伝導性などの機能が低下してしまうことが問題だった。

研究グループは,2次元物質であるグラフェンのハニカム構造をヒントに,高秩序な有機薄膜を実現するための分子・分子集積体の空間充填デザインを考案した。これを具現化するため,3枚羽プロペラ状のトリプチセン分子を設計し,薄膜を形成した。

大型放射光施設SPring-8の放射光X線で観察したところ,3枚羽が相互にかみ合った2次元状ハニカム構造と,それが1次元に積み重なった「2次元 + 1次元」の構造が形成されており,得られた薄膜にドメイン境界がないことを確認した。

このトリプチセンを放射光X線による分析を行ったところ,通常の「核生成・成長」だけではなく,「核生成・成長・融合」ともいえるプロセスで構造化しているとみられることがわかった。その過程で,3枚羽プロペラ構造の歯車がかみ合うことで,構造の秩序がセンチメートル規模にわたって伝搬されていると考えられるという。

トリプチセンは加熱溶融状態からの冷却以外にも,スピンコートや真空蒸着法によって,完全に配向した均一な膜形成が可能。スピンコートによる成膜では,単分子膜を構築できることも明らかにしている。

また真空蒸着法で製膜した薄膜についても,放射光X線による構造解析により,センチメートル規模にわたってドメイン境界がないことが示された。さらに真空蒸着法では,ガラス,プラスチックなど,基材を選ばずに高秩序な薄膜が形成できた。これらの特徴は分子集積膜の応用可能性を大きく広げるもの。

この有機薄膜はこうした簡便な操作で形成できるため,電子素子の高性能化,基材の表面改質,新規分子デバイス創出など多様な応用展開が期待される。また既存の成膜方法と組み合わせることで,超高精細分子膜を用いたフレキシブルデバイスの創出などの応用展開が期待されるとしている。

さらに,トリプチセンの3枚羽には,多様な機能性ユニットを付与することができるので,半導体特性,絶縁性などの電気的特性に加え,潤滑,親液撥液といった様々な機能を分子集積膜に組み込むことが可能となる。今回の成果は,「分子薄膜工学」という,有機機能材料開発の新しい視点を与えるものだとしている。

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