電通大,燃料電池触媒の化学状態/物理状態をイメージング

電気通信大学(電通大)は,固体高分子形燃料電池触媒劣化の化学状態/物理状態の2次元同視野イメージングに初めて成功した(ニュースリリース)。

これは大型放射光施設SPring-8に電通大と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が建設した燃料電池計測用のX線吸収微細構造(XAFS)ビームラインに開発整備した,2次元走査型顕微XAFS(ナノXAFS)システムと,走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用い,独自に設計したメンブレンXAFS/STEM測定セルを使った成果。

2014年12月にトヨタ自動車から燃料電池車が市場投入されたが,燃料電池自動車の本格普及にとって燃料電池電極触媒の耐久性の大幅向上が緊急の最大の問題の一つであるため,触媒機能劣化の原因とメカニズムの解明が強く求められている。

研究グループは,2014年10月に,新ビームラインを用いたナノXAFS計測によって,実用固体高分子形燃料電池の活性部位である膜/電極接合体(MEA)の白金(Pt)化学種の2次元マッピングに初めて成功した。

この時,カソード触媒層の境界やクラック周辺のマイクロメータサイズ領域に存在するPtナノ粒子が選択的に酸化され溶出されていることを初めてマッピング(化学状態イメージング)できた。

しかし,劣化初期におけるカーボン層のナノメータサイズのクラックやホールでのPtナノ粒子の挙動を観察することは,200 nm 空間分解能のナノ XAFS ではできなかった。一方,走査型透過電子顕微鏡(STEM)では化学状態は分からないが,個々のPtナノ粒子と元素の分布を決定することができる(物理状態イメージング)。

しかし,通常のSTEM像測定は高真空下で行なわれ,燃料電池試料が変形・収縮してしまう。STEMではPtイオンを観察したりPtナノ粒子の酸化状態を計測できないが,ナノXAFSでは200nm領域の平均としてPtイオンやPtクラスター/ナノ粒子の酸化状態と配位構造を解析することができる。

従って,ナノXAFSとSTEMを燃料電池発電下と同じ飽和水蒸気下で同一試料・同視野で観察できれば,他の方法では得られない燃料電池電極触媒の劣化情報を得ることができる強力な解析ツールとなる。

研究グループは,メンブレン XAFS/STEM 測定セルを設計製作し,燃料電池カソードPt/C触媒層のナノホール領域のナノXAFSとSTEM-EDS(EDS:エネルギー分散型X線分析)を同一試料・同視野で2次元イメージングすることに初めて成功した。

開発したナノXAFS―STEM/EDS同視野イメージング法は,燃料電池触媒の劣化機構解明と劣化抑制の解決に繫がる情報を提供し,今後の燃料電池車本格普及のための次世代燃料電池触媒設計の理解を支援し開発を加速するものとしている。

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