慶大,CMOSプロセスで最高となる光共振器を作製

慶應義塾大学の研究グループは,CMOS互換プロセスを用いて世界最高性能をもつナノ光共振器を作製することに成功した(ニュースリリース)。

フォトニック結晶は,シリコン薄膜にナノスケールの穴を周期的に空けた構造で,ナノ空間に光を閉じ込めることができる。光を閉じ込めると,微小な入力光でも非線形光学効果を引き起こすことができるため,信号処理応用ができることが既に示されてきた。

しかし,これまでのフォトニック結晶は高価で時間がかかる電子線描画によって作製されてきた。電子線描画は高精度だが大量生産には向いていない。一方,CMOS素子はフォトリソグラフィを中心としたシリコン加工プロセスで作製されるので生産性は高い。

しかしフォトリソグラフィは精度が足りないとされ,フォトニック結晶共振器の作製は試みられてこなかった。作製精度が低いフォトリソグラフィを応用するには,光をナノ空間に閉じ込めるための構造設計を誤差に強いものにする必要がある。研究では幅変化型という構造を用いることでその目的を達成した。

さらに今回の素子は,フォトニック結晶の上下面をSiO2膜によって保護することで,素子の寿命を格段に向上させている。シリコンフォトニクス素子や電子集積回路ではSiO2による保護は一般的だが,フォトニック結晶共振器では性能が低下するとされ,これまで共振器の上下面は空気にむき出しになっていた。

この構造の光学特性を測定すると,透過スペクトルの幅からQ値は2.2×105であることがわかった。Q値は光の閉じ込め性能を表す指標であり,この値はフォトリソグラフィで作製したフォトニック結晶としては世界値となる。

また,LSIの試作では複数の研究機関でウェハを乗合するシャトルサービスの利用が標準的となっている。この素子の作製にもシリコンフォトニクス向けのシャトルサービスを利用しており,高精度なフォトニック結晶共振器が誰でも簡単に手に入るようになり,研究開発が大幅に促進することが期待されるという。

作製したフォトニック結晶を用いて全光スイッチの実験を行なった結果,フォトニック結晶共振器素子を透過していた(透過していなかった)光が,制御光が入射した瞬間だけ透過しなくなる(透過するようになる)動作が示された。

この素子を用いても全光信号処理を容易に実現できることが示されたことで,配線の光化を目指したシリコンフォトニクスと組み合わせることにより,全光信号処理技術の進展に大きく寄与することができる。

今回の技術は,一度に大面積の素子を他の電子デバイスと同じ工程で作製できるので,研究グループは今後,他のシリコンフォトニクス素子や電子デバイスと集積した光回路を設計・評価することを検討している。

関連記事「京大,量子情報通信に適した共振器を開発」「NTT,ナノワイヤとフォトニック結晶による光ナノ共振器の形成に成功」「NICTら,量子ドット/シリコンフォトニクス波長可変レーザを開発