アルマ望遠鏡,銀河に漂う炭素原子の痕跡を発見

カリフォルニア工科大学,米国国立電波天文台らはアルマ望遠鏡による新しい観測によって,ビッグバンからわずか10億年ほどしかたっていない頃の「普通の」銀河の中に漂う炭素原子のかすかな痕跡をとらえることに成功した(ニュースリリース)。

研究者は銀河内部の運動や化学的性質を知ろうと,星々の間にまき散らされている物質を研究している。しかし,宇宙誕生から間もない初期の宇宙で炭素が放つ電波の痕跡を見つけようという試みはうまくいっていっておらず,さらに数十億年手前の天体でないと,十分な量の星の材料を観測するのは不可能だとみられていた。

しかし今回アルマ望遠鏡は,電離した炭素が放つかすかなミリ波の「輝き」をとらえた。それは宇宙が今の年齢の7%だった頃,9つの遠く若い銀河からやってきたもの。炭素などの原子は,明るく重い星からの強力な紫外線放射によって電離する。

最初の銀河が生まれた頃,星々の間のほとんどは,ビッグバンによって生まれた水素とヘリウムで満たされていた。一方,重い星が超新星爆発によってその一生を終わらせるとき,星の中心で作られた炭素,シリコン,酸素といった重い物質を星間空間にまき散らした。

電離した炭素の特定のスペクトルは,銀河の中で水素やヘリウムよりも重い物質がどのように増加してきたかを研究する上で,強力なツールになるかもしれないと長い間考えられてきた。それはまた,初期銀河におけるガスの運動を調べる唯一の方法でもある。

炭素は他の物質と結びつきやすく,単純なものから複雑なものまでさまざまな分子を形作る。このため,炭素は電離したばらばらの状態で長時間存在することはできない。従って,星間空間の他の重い元素と比べて,ずっと少量でしか見つからない。

これは,電離した炭素がまだ進化していない比較的若い銀河の優れた目印になることを示している。今回観測した銀河とその20億年後の銀河を比べると,20億年で銀河は重い元素の塵で満ち,電離した炭素はずっと少なくなっている。

さらに究者は同じ観測データを速度計のように使って,銀河の中を最速で秒速380kmの速度で移動しているガスを発見した。これは,最初の銀河がどのように集まって進化したのか,それを理解するための新しい知見となるもの。

観測したガスの速度は,数十億年後の星を作り出している普通の銀河におけるガスの速度と似ていて,現在近くの宇宙でもよく見られる。

さらに,これらの遠い銀河が,それぞれ太陽の100億から1000億倍の質量を持つことをつきとめた。これは,私たちが住む天の川銀河の質量に匹敵する。初期宇宙に多くある銀河は穏やかで,後の時代のものよりも質量が小さいと考えられてきたため,この結果は驚くべきもの。

アルマ望遠鏡のデータは,初期宇宙が私たちが現在考える普通の大きさの銀河を生み出せることを明らかにした。その一方で,電離炭素が豊富にあって塵が目立って少ないことは,それらが進化の過程において非常に未熟な段階にあることを示している。

この研究の中で,研究者はおよそ130億光年彼方の典型的な星形成銀河を9個選んだ。その銀河は宇宙進化サーベイ「COSMOS(コスモス)」から選ばれ,ハワイにあるケックⅡ望遠鏡の分光器DEIMOS(デイモス)によってその距離が測定された。

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