理研,マイクロ秒レベルのタンパク質観察法を開発

理化学研究所(理研)の研究グループは,タンパク質分子の非常に速い構造変化を追跡する新しい計測手法を開発した(ニュースリリース)。

タンパク質にはさまざまな機能があるが,機能を発揮するためには特定の立体構造(天然構造)を取る必要がある。タンパク質の構造変化は分子認識などの機能に密接に関わっているため,タンパク質の構造変化を理解することはきわめて重要となる。

しかし,どのようなメカニズムでタンパク質が自発的に構造を変化させ,天然構造が形成されるのかはいまだ明らかにされていない。

タンパク質の構造変化を詳細に調べるためには,一個のタンパク質分子に着目して,その構造が自発的に変化する様子を観察するのが最も直接的なアプローチとなる。

このために一分子FRETと呼ばれる方法が開発され,天然構造形成などタンパク質の構造変化が関わる現象の研究に応用されてきた。しかし,既存の一分子FRETは測定の時間分解能がサブミリ秒(数千分の一秒)程度だったため,数マイクロ秒(数十万分の一秒)で起こる速い構造変化を捉えることができなかった。

この時間分解能の限界は,蛍光色素が単位時間当たりに放出する蛍光光子の数に原理的に上限があることに由来するため,既存の一分子FRETの手法の延長では時間分解能を大きく改善することは困難だった。

研究チームは蛍光色素間の距離により変化するFRET効率を高い時間分解能で評価するために,蛍光色素がレーザ光を吸収してから蛍光光子を発するまでの時間(蛍光寿命)に着目した。これまで,FRET効率を評価するために2種類の蛍光色素が発する蛍光光子数の比を使っていたが,蛍光寿命を使う方が必要な光子数が少なくて済み,時間分解能が向上する。

蛍光寿命を使って一分子FRET実験を行なうため,蛍光標識したタンパク質分子にレーザパルスを照射し,その後,蛍光光子が分子から放出されてから検出器に到達するまでの時間を精密に計測した。これを連続的に繰り返すことで,タンパク質分子の構造変化による蛍光寿命の変化を測定した。

蛍光寿命の変化を可視化するため,二次元蛍光寿命相関分光法(2D-FLCS)という解析法を用いた。2D-FLCSを使うと,ある瞬間に特定の構造を取っていたタンパク質分子が一定の時間経った後に別の構造に変化する様子を,蛍光寿命の変化を通してマッピングできる。異なる時間間隔のマップを比較することで,構造変化の時間スケールが分かる。

また,測定結果を二次元マップ上に可視化することで,複数の中間構造がある複雑なケースでも直感的に構造変化を把握することができる。2D-FLCSを用いてシトクロムcというタンパク質の構造変化の過程を調べたところ,約5マイクロ秒で起こる分子レベルの構造変化が検出されるなど,タンパク質では非常に複雑な構造変化が起こっていることが分かった。

研究グループは今後,さまざまなタンパク質に対して2D-FLCSを応用することで,生体内でタンパク質が機能を発揮する機構が明らかにされると期待している。

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