名大ら,太陽風の「玉突き」が磁気嵐を巨大化することを発見

名古屋大学,国立極地研究所を中心とする研究グループは,磁気嵐の規模が巨大化する原因を解明した(ニュースリリース)。

北海道で11年ぶりにオーロラが撮影された2015年3月17日の磁気嵐の規模は,世界中の専門家の予想をはるかに超えるレベル(過去10年で最大)であり,その原因解明が緊急の課題となっていた。

探査機によって直接観測されたコロナ質量放出の磁場,速度,密度,温度について調べた結果,このコロナ質量放出は,平均的なものと比べて密度が濃く,温度が高いという特徴があることがわかった。

これは,コロナ質量放出の後ろ側から追い風のように吹き付けていた高速太陽風によって,コロナ質量放出の膨張が妨げられていたためだと考えられる。また,この日のコロナ質量放出の前方も,非常に密度が濃かったという特徴があることがわかった。これは,あらかじめ渋滞していた低速太陽風か,追突によりさらに圧縮されていたためだと考えられる。

次に,磁気流体力学シミュレーションを用いて,このコロナ質量放出が太陽から地球まで伝搬する様子を再現する実験を行なった。その結果,高速と低速の太陽風に挟まれたコロナ質量放出の立体的な全体像が明らかになった。

さらに,観測された太陽風の磁場,速度,密度を入力値として,磁気嵐の規模を再現するモデル計算を行なった。その結果,強い南向き磁場の影響だけでは,磁気嵐は今回観測された規模にまで十分に発達せず,玉突き事故のようにして全体的に太陽風の密度が濃くなったために磁気嵐の規模が約5割増強されたことを明らかにした。

この研究により,小さな太陽フレアでも大きな磁気嵐が起こることがわかった。また,実際に磁気嵐が巨大化する具体的な仕組みも明らかになった。これまでのように,大きな太陽フレアが起こったときに,太陽面の観測からコロナ質量放出の磁場のねじれを計算するだけでは磁気嵐の規模の予測には不十分であることがわかった。

研究グループは,今後の巨大磁気嵐を逃さずに予測するためには,磁気流体力学シミュレーションによって,高速風,低速風,コロナ質量放出の全体像を把握し,それらのダイナミックな変化を正確に追跡する必要があるとしている。

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