日大,鉄系のはしご格子を持つ物質で超伝導を発見

日本大学の研究グループは,約11万気圧以上の圧力下で,はしご型構造を持つ鉄系化合物BaFe2S3が最高17Kで超伝導を示すことを発見した(ニュースリリース)。鉄系のはしご格子を持つ物質での超伝導は世界で最初の発見。

現在最も高い超伝導転移温度を持つ銅酸化物超伝導体の多くは,超伝導の舞台となる銅の正方格子を基本構造としており,現在も様々な研究が進められている。

銅酸化物超伝導体では,例は少ないものの銅のはしご格子をもつ物質が<圧力下で超伝導を示し,超伝導発現機構の理解に大きく貢献している。

一方,いまだ超伝導発現機構の統一的な理解に至っていない鉄系超伝導体は,例外なく鉄の正方格子を基本構造としており,次元性の異なる結晶構造を有する超伝導体の発見が望まれていた。

研究グループでは,はしご型格子を持つ鉄系化合物に着目して物質開発を行ない,BaFe2S3が120K以下で鉄系超伝導体の母物質と類似のストライプ型反強磁性秩序を示すモット絶縁体であることを明らかにした。

BaFe2S3に圧力を印可することで金属化を試みたところ,約11万気圧で金属—絶縁体転移を示し,金属化と同時に低温で抵抗の大きな減少を観測した。詳細な実験を通して,この抵抗減少が超伝導転移に起因していることを確認した。

高圧下での物性測定には,ダイヤモンドアンビルセルとキュービックアンビルセルを用いた。これらの実験技術により,10万気圧を超える超高圧力下での精密物性測定を行なった。

はしご格子を持つ超伝導体は,超伝導対称性がd波的である事が理論的に予測されており,正方格子を持つ鉄系超伝導体やはしご格子をもつ銅酸化物超伝導体と物性を比較することで,超伝導発現機構の解明や新超伝導物質の探索が進むことが予想され,今回の発見は今後の超伝導研究に大きな進展と広がりを与えることが期待されるとしている。

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