東北大ら,強誘電体の極薄単結晶膜の作製に成功

東北大学と東京工業大学の研究グループは,極薄膜でも特性が劣化しない強誘電体エピタキシャル膜(結晶方位が揃った単結晶膜)の作製に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

強誘電体は電源を切っても電圧をかけた方向によって2つの安定した状態が実現するため,データが保存できるメモリとして電車のICカードなどで使用されている。また,力によって電圧を発生したり電気信号により大きさが変化したりする圧電性を併せ持つため,ガスコンロの着火器やMEMSの動力源としても利用されている。

これ以外にも,高性能でありながら電池が長もちするコンピュータが期待されているが,その実現のために不可欠な薄い強誘電体膜が作製できていない。強誘電体は薄くしていくと特性が低下する“サイズ効果”があることが広く知られており,過去50年以上にわたってその解決が取り組まれてきた。

4年前に,極微細なトランジスタの絶縁体として広く使われている酸化ハフニウム基物質で,これまで不可能と考えられていた薄さで強誘電性が発現することが報告され,また,薄いほど特性が良くなる“逆サイズ効果”が見いだされて,大きな注目を集めた。

だが,これまでに報告されている強誘電体は多結晶であり,不純物相も存在するため,安定した特性を得ることが難しい状況だった。非常に薄い強誘電体を用いたデバイスを実用化するためには,結晶方位が揃った単結晶膜の作製が不可欠になるが,これまで非常に薄い単結晶膜を作製することはできていなかった。

研究グループは,強誘電体膜の組成を状態図から再度検討して最適化したY2O3を置換したHfO2を選択するとともに、薄膜を成長させる基材の結晶構造およびその格子の長さを工夫することで、15nmまで薄くても特性が劣化しない強誘電体単結晶膜の作製に成功した。また,この単結晶膜を用いることで,強誘電体相が400℃以上の高温まで安定に存在することを明らかにし,広い温度範囲での使用が可能であることが分かった。

今回の研究成果は,以下のような波及効果が期待されるという。
a)“夢のメモリ”強誘電体メモリの高容量化の実現
b)新規デバイスの実現
① 超高密度新規メモリ
抵抗変化型メモリ(Resistance Random Access Memory,ReRAM)は,消費電力が小さく,大容量化が期待できる。今回の成果により,強誘電体抵抗変化メモリの実用化研究が始まる。
② 高性能で電池の寿命が飛躍的に延びたスマートフォン
極薄膜でも安定した強誘電性が得られると,高性能で使用しても消費電力が低く,電池の持ちの良い新タイプのトランジスタを作製することが可能となる。
c)“逆サイズ効果”を有する強誘電性の起源の解明と新物質探索の加速
2011年に見つかった酸化ハフニウムを基本組成とする強誘電体は,これまで多結晶のみしか得られておらす,単相も得られていなかった。そのために,薄いほど特性が向上する“逆サイズ効果”がなぜ発現するのかは明らかになっていない。単結晶が得られたことで,“逆サイズ効果”特性の起源解明が期待できる。また新物質の探索も加速する。

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