産総研,ミリ波帯標準伝送路を印刷で作製

産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは,印刷技術を利用して,100GHzを超えるミリ波帯で優れた伝送特性を示す高周波伝送路(コプレーナ導波路)を開発した(ニュースリリース)。

電波の中でも30GHz以上の高い周波数であるミリ波は,ミリ波帯を利用するデバイス(ミリ波帯デバイス)が高価であったため普及の妨げとなっていたが,近年では安価なシリコンデバイスがミリ波帯で動作できるようになり,自動車衝突防止レーダー,近距離無線通信技術,第5世代(5G)携帯電話といったミリ波帯デバイスの開発が進んでいる。

それに伴い,ミリ波帯デバイスの性能評価に用いる「標準伝送路」が重要となるが,繰り返し使用すると接触点の状態が変化し,伝送特性や反射特性が劣化してしまう。そのため,ミリ波帯デバイスの高精度な性能評価には,高価な標準伝送路(数万円~数十万円)を,頻繁に交換する必要があった。

産総研では,ミリ波帯デバイスの性能評価技術とプリンテッドエレクトロニクスの実現を目指した研究開発を行なっており,高性能の高周波伝送路を印刷技術によって安価に作製する研究開発を行なうこととした。

コプレーナ導波路の伝送特性と反射特性はそれぞれ,導波路導体の導電率と導波路寸法の精度により決まる。今回,110GHzまで信号を伝送できるミリ波帯のコプレーナ導波路を設計し,導電率の高い銀ナノ粒子インクと高精細なスクリーン印刷技術を用いて,アルミナ基板上にコプレーナ導波路(信号線幅が50µm,信号線と接地線の間隔が25µm)を作製した。

今回開発した印刷法によるコプレーナ導波路と従来のコプレーナ導波路について評価したところ,印刷法による伝送路の伝送特性は,従来の伝送路と同等か,それ以上であった。60GHz以上の高周波数領域では,従来のコプレーナ導波路よりも低損失となり,特に100GHz以上では約半分の低損失を実現した。

また,反射特性においても従来とほぼ同等の性能を示した。これらの評価結果は,従来技術に比べて導電率と寸法精度が同等か,それ以上である伝送路を,印刷技術により作製できることを示すもの。

さらに,今回開発したコプレーナ導波路に高周波プローブを10回接触させたところ,印刷法によって作製したコプレーナ導波路は,従来のコプレーナ導波路に比べて位相変化が3分の1程度であり,安定性が増していることが分かった。これは,繰り返しの接触による導体金属表面の変形が少ないためと推測されるという。

これらの評価・測定結果から,今回開発したコプレーナ導波路は,伝送特性・安定性の面において,従来のものより優れており「標準伝送路」として利用できる。また作製コストも安価なことから,ミリ波帯デバイスの性能評価用の「標準伝送路」として非常に有望だとししている。

産総研では今回開発したコプレーナ導波路を,様々なミリ波帯デバイスの性能評価に活用し,「標準伝送路」としての有用性を実証する予定。

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