NICTら,光ファイバ1本あたり2.15 Pb/sの伝送に成功

情報通信研究機構(NICT)は,住友電気工業,米RAM Photonics,LLCと共同で,従来世界記録であった光ファイバ1本あたりの伝送容量を2倍以上に更新し,2.15 Pb/sの光信号の送受信実験に成功した(ニュースリリース)。

増大し続ける通信トラフィックに対応するために,NICTではこれまで,マルチコア光ファイバや結合装置,増幅器などの基本機能やそれらで構成されるネットワークの研究開発を行ない,光ファイバの製造技術限界を突破するための世界最高コア数36コア,かつマルチモードの光ファイバ伝送実験にも成功してきた。

しかしながら,実際の光ファイバ通信システムにおいて,既存の光ファイバ伝送システムの能力を大幅に凌駕するためには,高品質の新型光ファイバだけでなく,高性能の光通信装置との相乗効果が不可欠となる。また,実用的な新型光ファイバでは,長距離伝送に耐え得る低損失,低クロストークを実現する必要がある。

さらに,波長多重技術を使う光通信装置では,伝送能力を左右するレーザ光源の性能を高める必要があり,一括で数百の光搬送波を生成する高精度光コム光源の利用が期待されていた。

今回NICTは,長距離伝送への適応性を考慮し,シングルモード22コアファイバと,高品質なレーザ光源群よりも優れた性能を持つ光を,通信波長帯において一括生成する高精度光コム光源による光伝送システムを構成し,従来記録の2倍以上となる2.15Pb/sの光信号の送受信実験に成功した。

実験では,住友電工が「シングルモード22コアファイバ」を設計・製造した。また,「高精度光コム光源」は,住友電工が独自開発した専用の高非線形ファイバを使用し,RAM社が設計・製造した。

22コアファイバは,すべてのコアが従来ファイバと同じシングルモードであることから,長距離伝送特性に優れ,なおかつ,全コアが同等の物理特性である同種コア型であるためコア間の信号品質が均一となり,空間符号化や自己ホモダイン伝送などの高度な伝送方式にも対応できる。

高精度光コム光源では,25GHz間隔の399波長の搬送光を一括生成している。既存の波長多重伝送システムで一般的なレーザ光源群に比べ,雑音を大幅に抑え,周波数の安定性も高いために,高密度な信号伝送を可能にする。

今回の実験結果により,マルチコアファイバの潜在能力を押し上げると共に,高精度光コム光源の大容量伝送への適用を実証したことで,将来の大規模コヒーレント光ネットワークの可能性を拓いたとしている。

NICTは今後,マルチコアマルチモードファイバ伝送技術の実用化を目指して,通信事業者,メーカーとの取組を積極的に推進し,光通信の更なる大容量化技術の研究開発に取り組んでいく。

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