東北大,超伝導物質の薄膜化技術を確立

東北大学の研究グループは,鉄とセレンからなる層状の超伝導物質であるセレン化鉄(FeSe)を,電気化学反応をつかったエッチング法を用いて極薄膜化する技術を確立した(ニュースリリース)。

FeSeは層状の鉄系超伝導物質で,バルク(塊)の状態で超伝導転移温度が8Kであることが知られている。さらに近年の研究では,1nm程度の極薄膜状態にすると65Kという高温で超伝導転移を示すことが明らかになっており,薄膜化によって超伝導状態の高温化が期待されている。しかしながら,FeSeは大気中で劣化しやすく,これまで超伝導転移温度に対する詳細な膜厚依存性に関する研究が未開拓だった。

研究では,電気二重層トランジスタの構造を用いて,電気化学反応を活用したエッチング法により極薄膜化する技術を確立し,FeSe に適用した。

パルスレーザー堆積法により原子40層程度(約20nm)のFeSe薄膜を作製した後,その表面にイオン液体を載せることにより,電気二重層トランジスタを作製した。正の電圧をゲート電極に印加して陽イオンを薄膜表面に吸着させると,陽イオンと薄膜表面の電子が形成する電気二重層が強い界面電場を発生させる。

この状態で試料温度を上げることで,薄膜表面からFeSeが溶け出す(エッチングされる)。この方法で,初期状態の20nmから徐々に厚みを薄くして行き,単原子層(~0.6nm)を得ることに成功した。

さらに研究では,各膜厚で電気抵抗の温度依存性を測定した。その結果,10nm程度以下の厚さで薄膜全体が40Kの高温超伝導体になることが分かった。これらの結果は,この研究で実現した電気二重層トランジスタによるエッチングが,原子1層レベルで均一であり,精度よく単原子層まで薄膜の厚みを制御できることを意味している。

また,これまで1nm程度の極薄膜状態のときしか起こらないと報告されてきた高温超伝導転移を,実
際には電界を印加することで10nm程度までの広い領域で実現できるということも今回明らかとなった。この研究成果により得られた,膜厚効果と電界効果の両側面をより詳細に検証することで,今後,セレン化鉄の超伝導転移温度の高温化についての理解が進むと期待されるという。

この研究結果により,電気二重層トランジスタ構造を用いて,物質の膜厚に依存する物理特性を数十の原子層が重なった厚い状態から単原子層まで一つの試料で測定できることが明らかとなった。

最近,次世代ナノエレクトロニクスの候補物質としても注目されている層状物質の単原子層状態は,電界効果を組み合わせた研究において様々な興味深い現象の発見が相次いでいる。

この研究で開発したエッチング法と物性測定を組み合わせた新たな技術は,他の様々な物質系への適用が可能。今後,新奇物性の発見を目指した極薄膜物性研究やナノエレクトロニクス材料開発に展開していくことが期待されるとしている。

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