「いぶき」,人間によるメタン濃度の上昇を検出

環境省,国立環境研究所(NIES)及び宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,共同で開発した温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT(ゴーサット))による観測データを解析した結果,人口密集地域,大規模な農業地域,天然ガス・石油の生産・精製地域等の人為起源メタン排出地域で周辺よりもメタン濃度が高いことがわかったと発表した(ニュースリリース)。

さらに,「いぶき」で観測された人為起源メタン濃度と排出量データ(インベントリ)から推定された人為起源メタン濃度との間に強い正の相関関係があり,「いぶき」は人間活動によるメタン排出に伴う濃度上昇を検出できる可能性が高いことがわかった。

「いぶき」に搭載される観測装置は,Thermal And Near-infrared Sensorfor carbon Observation(TANSO)と呼ばれている。TANSO は,「温室効果ガス観測センサー(Fourier Transform Spectrometer; FTS)”TANSO-FTS”」,「雲・エアロソルセンサ(Cloud and Aerosol Imager; CAI)”TANSO-CAI”」という2つのセンサーから構成されている。

FTSは,光の干渉を利用したセンサー。センサーに入ってくる光を2つの光路に分け,両者に光路差を作って再び合成することにより干渉を起こす。光路差を少しずつ変えながら観測した信号をフーリエ変換を変換を行なうことによって,波長別の光の強度分布(スペクトル)を得ることができる。

FTSは,地表面により反射された太陽光と,地球大気や地表面から放射される光のスペクトルを観測する。これにより,二酸化炭素,メタン,水蒸気の濃度を計測することができる。CAIは,大気と地表面の状態を昼間に画像として観測する。観測データから,FTS の視野を含む広い範囲での雲の有無を判定し,エアロゾルや雲がある場合はその雲の特性やエアロゾルの量などを算出する。これらの情報は,FTS から得られるスペクトルに含まれる雲とエアロゾルの影響を補正することに利用される。

FTSは全球にわたり偏りなく,3日間で5万6千点の観測を行なう。実際には,解析可能な地点は雲の無い晴天域に限られるため,二酸化炭素とメタンのカラム量を算出できる地点数は全観測数の2-5%程度になるが,現在の百数十点の地上測定に比べて測定点数は飛躍的に増加し,これまでの観測の空白域を埋めることができる。

今回の解析の結果,「いぶき」や将来の衛星によるメタン濃度観測値が,人為起源メタン排出量(インベントリ)の監視・検証として有効利用できる可能性があることが示された。今後さらに,人為起源メタン濃度の推定精度を高めるために,より高頻度で多数の衛星データを利用して調査・研究・解析を進めるとしている。

また,衛星によるメタン濃度観測値から人為起源のメタン排出量をより正確に推定するために,より高精度なモデル数値実験や排出量インベントリの改良研究やその評価に取り組む。そして,これらの成果を平成29年度打上げ予定の「いぶき後継機」(GOSAT-2)に応用し,地球温暖化対策の促進に貢献していくとしている。

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