NIMSら,最強のスピン-フォノン結合を観測

物質・材料研究機構(NIMS)の研究チームは,米国オークリッジ国立研究所と共同で,2009年にNIMSが世界で最初に合成したオスミウム酸化物が,観測史上最強のスピン-フォノン結合を示すことを明らかにした(ニュースリリース)。

白金族元素やその化合物は,触媒として広く利用されている一方で,コストが高いこともあり触媒以外の機能性についてはあまり研究が進んでいない。NIMSの研究チームは,2009年に合成したオスミウム酸化物が,室温より高い温度(∼140 ℃)で特異な磁気転移を示すことを発見し,触媒以外の産業的・工業的機能性の開拓に挑戦してきた。

今回,オスミウム酸化物のスピン-フォノン結合を観測した結果,かつて観測されたことがない最強の結合であることが明らかになった。

スピン-フォノン結合が強いのは,酸化物固体の中でオスミウムの最外殻電子軌道が空間的に大きく張り出しているためだと考えられるという。この構造的な特徴は,白金族元素に共通する特徴のため,オスミウム以外の白金族元素の化合物も強いスピン-フォノン結合を持つ可能性が高いことを示唆している。

スピン-フォノン結合は磁性(スピン)と結晶格子系(フォノン)の相互作用の強度を直接的に表している。スピンとフォノンの相互作用が強いほど,例えばマルチフェロイクス材料など磁性と格子系の結合が重要な材料の開発に有利だと最近の研究から示唆されている。

マルチフェロイクス材料は,高密度情報記録素子や超高速演算素子を低消費電力で実現できるとして期待が高まっている画期的な機能性材料の候補であり,この研究成果はその実現に向けた大きな一歩と考えられるとしている。

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