原研ら,レーザーのトンネル検査を高速化

日本原子力研究開発機構(原研),レーザー技術総合研究所(レーザー総研),理化学研究所(理研)の合同研究グループは,コンクリート内部の外からは見えない「ひび割れ」などの欠陥をレーザーにより検出する「レーザー欠陥検出法」と呼ばれる技術を高速化し,従来の50倍の速さでの欠陥の検出に成功した(ニュースリリース)。

「レーザー欠陥検出法」では,振動励起レーザーとレーザー計測システムの2つのレーザーを用いる。振動励起レーザーは,強いレーザー光をトンネル内壁にパルス照射することで,ハンマーでコンクリートを叩くように,レーザー光でコンクリート表面に振動を与える。

レーザー計測システムは,レーザー光の反射を用いてコンクリート表面の振動の様子を調べ,欠陥が原因の特異な振動成分を検出する。この方法の原理実証は,JR西日本とレーザー総研により,すでに行なわれているが,現状で計測の速さが2秒間に1回に限られており,更なる検査速度の向上が望まれていた。

振動励起レーザーは,強い衝撃を与えることができる「パルスレーザー」が適していry。トンネルコンクリートの検査を高速化するには,1秒間に何十回という高い頻度でパルスを発生させる必要があるが,従来の技術では,高速動作に伴う熱の影響によりレーザー媒質に歪みが生じ,数メートル離れた検査対象をレーザー光で叩くことができなかたった。

今回,熱歪みを低減させる専用の水冷機構を組み込んだ光増幅器を新たに開発するとともに,レーザー光の品質低下を抑制する光学配置を新規に設計することで,最大50ヘルツまでの「高速動作が可能な振動励起レーザー」を開発した。

実際にトンネルコンクリートの検査を高速で行なうには,検査領域内の各検査位置に高速かつ正確にレーザー光を導く必要がある。今回,電磁石に流す電流量を調整することで高速かつ精密に回転を制御できるガルバノ鏡を用いた専用の掃引機構を開発した。これにより,振動励起レーザー光とレーザー計測システムのレーザー光の両方を高速かつ正確に掃引することが可能になった。

更に,振動計測・欠陥判定のアルゴリズムの高速化を行なうことにより,計測から欠陥判定・結果表示までをリアルタイムで行なうことが可能な「高速掃引レーザー計測システム」を開発した。

研究グループは,今回開発した「高速動作が可能な振動励起レーザー」と「高速掃引レーザー計測システム」を組み合わせることで,トンネルコンクリートの健全性の検査速度を従来の50倍の速度に相当する,1秒間に25回(25ヘルツ)に高速化した「高速掃引レーザー欠陥検出装置」の開発に成功した。

検査箇所のコンクリート内部が健全である場合には,振動の周波数に特定の偏りは見られないが,コンクリート内部に欠陥がある場合には,その構造に応じた特定の振動(卓越振動)が強く現れる。この卓越振動を検知することで,健全性の診断を行なった。今回の検査の高速化により,従来では約100秒かかっていた49ヵ所の検査を,従来の50倍も早い,僅か2秒以内(25ヘルツ)で行なうことが可能となった。

今回の結果は,「レーザー欠陥検出法」の高速化に成功した初の事例。今回の計測では,コンクリート供試体内部の模擬欠陥の検出を行なったが,実際のトンネル内部には,深さ,形状,大きさなど様々なタイプの欠陥がある。

今後,この技術を用いて,実際のトンネルにおける様々な欠陥検出ができることを検証・確認していくことで,遠隔・非接触のトンネル安全性検査技術の実現が期待されるほか,「レーザー欠陥検出法」は,検査の遠隔化に加えて自動化も期待できるため,検査の効率化・低コスト化につながる事も期待されるとしてる。

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