NEDOプロ,近距離無線通信を有機半導体で実現

NEDOプロジェクトにおいて,トッパンフォームズ,富士フイルム,パイクリスタル等のグループは,印刷で製造可能な有機半導体デジタル回路の高速化に成功し,世界で初めて商用ICカード規格で動作する温度センシングデジタル回路を実現した(ニュースリリース)。

有機半導体は,現在,主に用いられているシリコンなどの無機半導体と比べて,塗布法・印刷法といった簡便かつ比較的低温での作製が容易で,薄型,低コスト,プラスティックRFIDタグやフレキシブルディスプレイなどのユニークな用途が期待できるといった特長があり,研究が進んでいる。

しかしながら,簡便かつ低コストに成膜し,実際に商用周波数でRFIDタグと通信する高速応答性能を実現することは困難だった。

今回,研究グループは,印刷で製造可能な有機半導体デジタル回路の高速化に成功し,商用ICカード規格の26.5kHzで動作するフィルム上の温度センシング電子回路を世界で初めて実現した。

具体的には,有機半導体を塗布し結晶化させる技術を基に,高速応答用に設計されたチャネル長5μmの有機CMOS回路を集積化し,従来のスピードを1桁上回る世界最高速のDFF(D-Flip-Flop)回路によるデジタル情報処理を実現した。

得られたデジタルデータを,13.56MHzの商用周波数で信号伝送することにも成功し,開発した有機半導体電子回路が,スマートフォンや交通機関用ICカードで一般的なNFC(Near Field Communication)規格に準拠できることを実証した。

独自開発した塗布して作れる有機デジタル温度センサと組み合わせて,従来の塗布型有機半導体よりも,10倍以上高い性能で,1/10以下の低コスト化が可能な印刷法で形成できるため,プロジェクトの目標である温度検知機能つき物流管理タグの商品化に大きく前進した。

今後,NEDOプロジェクトにおいて,開発を進めている温度センサを搭載した物流管理用RFIDタグの試作を進め,実用化への研究開発を加速する。また,東京大学内に組織した,有機材料開発からパネル部材,装置開発,デバイス開発を行う企業とのコンソーシアム「ハイエンド有機半導体研究開発・研修センター」では,RFIDタグに限らず,高速動作の有機エレクトロニクスデバイスの開発を広範に目指す。

関連記事「産総研,衣類のようにフレキシブルなトランジスタを開発」「東大,室内光で発電・動作する腕章型フレキシブル体温計を開発」「九大,フレキシブルな高性能n型熱電変換材料を開発