NIMS,ナノ粒子を利用し太陽熱で効率的に水を加熱

物質・材料研究機構(NIMS)は,遷移金属窒化物や炭化物のナノ粒子が,太陽光吸収効率が高いことを数値計算で明らかにし,実際に窒化物のナノ粒子を水に分散させた実験で水温上昇速度などが速いことを確認した(ニュースリリース)。

家庭の用途別消費エネルギーにおいて給湯と暖房の割合は合計で55%に達するため,太陽光を無駄なく熱に変えて利用できれば,二酸化炭素の削減にも繋がる。太陽光を吸収する従来の集熱パネルや集熱パイプは伝熱ロスが発生するため,水などの媒質に分散させることで直接加熱できるナノ粒子に注目が集まっている。

今回研究チームは,第一原理計算を行ない,太陽光の光熱変換に適したナノ粒子材料の探索および物性値の予測を行なった。その結果,セラミックスである遷移金属窒化物と遷移金属炭化物の太陽光吸収効率が高いことを明らかにした。

さらに,遷移金属窒化物の中でも窒化チタンに注目し,窒化チタン(TiN)ナノ粒子を水に分散させて太陽光を照射したところ,9割に近い高効率で光を熱に変換することを実験的に確認した。

純水に分散したナノ粒子を対象とし,TiNナノ粒子を0.0001vol%水に分散させ,ソーラーシミュレーターからの光を照射したときの水蒸気発生量と温度上昇量を計測した結果,TiNナノ粒子入りの水は純水より水蒸気発生量も温度上昇量も約2倍高い結果となった。

また同じ0.0001vol%の炭素ナノ粒子入りの水と比較しても,TiNナノ粒子入りの水のほうが水蒸気発生と水温上昇の効率が高いことが分かった。これらの結果から,TiNナノ粒子の太陽光の光熱変換効率が高いことが確認できた。

これについて,TiNナノ粒子は広帯域なプラズモン共鳴を示すため,ナノ粒子1個当たりの太陽光吸収効率では金や炭素のナノ粒子よりも高い性能を示すと考えられるという。

今後,この成果を床暖房や給湯および汚水や海水の蒸留などに応用することを検討している。今回の実験から試算すると,例えば10Lの汚水から5時間で約1Lの蒸留水が得られるという。

ナノ粒子を用いた蒸留器は太陽光のみで動作し構造が簡易にできるため,災害時や社会インフラの整っていない国や地域などでの利用が想定される。また,これら以外のナノ粒子の応用として,高分子とナノ粒子とのハイブリット材料の開発や,ナノ粒子を介した化学反応の促進などにも取り組んでおり,近日中に成果を発表する予定だとしている。

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